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届かない愛を歌う為に 02

ルート→にょロヴィ
モブ出張ってますけど、所詮モブはモブです。

「白い真珠亭」

その言葉が同僚のコンラートから出た時、俺の身体はあからさまにビクンとはねた。
あわてて表情を繕ったが、全くの手遅れ。コンラートは兵学校の時からの古い知り合いだ。全てとは言わないが、ある程度見透かされているのは知っている。
苦い顔をしてため息をつくと、案の定彼は愉快そうに笑った。
「ルートヴィヒも行くだろ?“白い真珠亭”」
にやにやとしながら、彼は俺の首に腕を回して耳元で「ロヴィーナちゃんに会いに」とからかった。
他の人間には気づかていない自信があったが…やはり彼にはばれていたようだ。
確かに、普段は誘われても腰が重いくせに、“白い真珠亭”に行くとなるとあっさり頷いていたのだから、分かりやすいといえば分かりやすかったか。
しかし何故、目当ての人物までわかったのだろうか。
少し憮然としていると、「お前ってマジ分かりやすいんだよ」と言って背中をバシバシと叩かれた。
「痛いんだが…」
「おー、悪い悪い。まぁとにかく準備だ準備。あ、ちゃんとシャワーも浴びとけよ」
「シャワー?何故?」
いつもは仕事が終わってしまえばそのままなだれ込むのに。
不思議に思って彼に視線を向けると、彼はニヤリと意味ありげに口角を引き上げた。

 ※

結局俺は彼にシャワールームに押し込められ、さっぱりとしてから出掛ける事になった。
やたらと張り切るコンラートに嫌な予感がするが、そのたくらみまではわからない。

この片田舎の町で一番大きな酒場である白い真珠亭は、今日も人々で溢れかえり盛り上がっていた。
ここでは無礼講が暗黙の了解。高い地位につく騎士も、今回初めて任務につく兵士も隣同士の席で楽しく食事と酒を楽しんでいる。
「おぉ、賑わってるなぁ」
彼がいう通り、店内はごちゃごちゃとしていて席がない。
男たちのがなるような声、歩き回る音、グラスや食器がぶつかる音、テーブルをたたく音…あらゆる音で店内は満たされており、耳が痛いほどだ。
しばらく壁際に立って席が空くのを待つ。と、間もなく奥の方に丸テーブルがひとつ空いた。
元々は四人席のようだが、椅子の1つは誰かがどこかに持っていってしまっていて、残る3つの内の一つには酔っぱらってつぶれた男がいた。
認めたくはないが、つぶれた男も知り合いだった。名前までは知らないが…
コンラートが酔っぱらいに話しかけているが、全く反応が返ってこない。完全に潰れている。これは朝まで目を覚まさないかもしれない。
俺たちは放っておいて食事をとることにした。とりあえずは今日消費したカロリーの摂取だ。
俺とコンラートはジャガイモと玉ねぎを甘く煮詰めたものと、大きなステーキ肉、薄く焼いたこの地方独特のパンに野菜を煮込み作ったというドロドロのスープをがっつくように腹におさめた。
この店の料理は、値段が手頃なわりに味も量も申し分ない。
俺より地位の低い連中の薄給でも毎日通えるくらいでとても良心的だ。
しかもちょっとした余興をタダで楽しめるし、望めば女を買うこともできる(俺は利用したことはないが)
腹が落ち着いて顔を上げると、ちょうど余興が始まろうとしていた。
今は前座の下手な手品だ。
痩せた男が赤い玉をいくつも宙に放りあげている。
ぼんやりとそれを見ていると、「なぁルートヴィヒ」と酒瓶を持ったコンラートが言った。
「なんだ?」
「あの双子のステージが終わったら、席にロヴィーナを呼ばないか?」
「は?」
「だから、終わったらあの二人、別れてチップをもらいに客席を回るだろ?その時に誘うんだよ」
「だが…」
「別にそれくらい普通だろ?」
たしかに。彼女たちがチップをもらった客の席に座り一杯をごちそうになる…というのは珍しい事ではない。
「だけど…迷惑だろう」
「迷惑かどうかは向こうが決めるさ」
彼女たちは酔っぱらいの相手にもなれているらしく、しつこい相手の扱いも上手だ。
嫌だと思えば、それ相応の態度をとるだろう。
「…いや、いい。やめておこう」
「おい、なんでだよ」
「何故って…」
彼女がここに来たとして、俺にどうしろというのだろう。
「無理だ」
女性の扱いなんかしらない。
面白い話だってできない。
つまらない男なのだ。剣のと馬の話くらいしかできない。
彼女を退屈させるだけだ。なんて面白みのない男だと思われるだけだ。
「大丈夫だって。ごちゃごちゃ考えすぎだぜ?ルートヴィヒ」
「コンラート…」
「自己紹介やってりゃその内話題は出てくるんだよ」
コンラートがそんなことを言ってる内に、二人が出てきた。
「よし、俺が会話の糸口ってやつを教えてやるよ」
歌うことも踊ることも得意な二人。今日はどうやら躍りを披露してくれるらしい。
赤い揃いのドレスを着た二人、一人はポニーテールを顔の右側に寄せていて、その子はフェリシアーナと紹介される。そしてポニーテールを左側に寄せた子が…俺がどうしても心惹かれずにおれないロヴィーナだ。
二人は姉妹なのだから当たり前だが…とてもよく似ている。
だけどやっぱり目が追ってしまうのはロヴィーナの方だ。
フェリシアーナよりも少し気の強そうな目、客の前では笑顔を見せるがふっと気を抜いた時などには不機嫌そうにしている顔、そして妹と話す時に見せるいたずらっぽい本物の笑み。
自分にはもったいない女性だということはわかりきっている。
だけど…もし彼女が自分の傍にいてくれれば…
「おい、聞いてるのか?」
肩をゆすられてハッとする。
「なんだ?」と振り返れば、コンラートは嫌そうな顔をした。
「あのなぁ、見惚れるのもいいけどちゃんと俺の話も聞けよ」
「み、見惚れてなど…」
「あぁ、わかったわかった」
コンラートは面倒くさそうに手を振り、「だからな」と口を開いた。
本当は彼女の方を見ていたいが、彼女に目が釘付けにされている…なんてことをコンラートに見せるのはとても恥ずかしい。
俺は自分の心を押し殺してコンラートの話に耳を傾けた。…傾けるように努力した。

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