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Jack the Ripper 06

誰かが俺の横を通り過ぎた。
青いコートを着た銀髪の男。
あれは…

バシャンッ!!!

気づいたときには、俺は水たまりの中に両手と片膝をついた格好で“着地”していた。
「今、何か…」
重要なものを見た気がする。
でも通りすぎてしまった。
忘れてしまった。
ならばそれはそれほどには重要ではなかったということだろうか。
濡れた体を犬のように震わせ顔を上げると…大粒の雨が絶え間なく降り注いでいるのに気づいた。
辺りは闇、そして地面はどうやら石畳。ほとんど光がなくて俺の目を持ってしてもすべてを見通す事はできないが、ここが広い空間であるということは分かった。
「ピクシー…?」
古参の仲魔の名を呼ぶ…が、存在は感じられるのに繋がらない。
電波障害でも起きているかのようにノイズが、ストック空間への道を閉ざしている。
何度か接触を試みようとしたが、どうにもつながらないらしい。
仕方がない…と立ち上がると、水が足首のあたりまであることに気づいた。
相変わらずひどい雨だ。バケツをひっくりかえしたような…いや、滝の下にいるかのような。打ち付ける雨は痛いほど。
俺は額に張り付いた前髪をかきあげ、それからどちらに歩き出すべきかを考えた。
だが前も後ろも、右も左も闇に没していて判断の指針となるようなものはない。
俺は視覚に頼ることを諦め、嗅覚を研ぎ澄ませた。すると…香ってくる。雨に吸われながら、それでもまだ残る悪魔の香り。
いや、それは実際には“匂い”というものとは別のものなのかも知れない。だがそれは確かに俺に伝わってきた。
それを少しでも多く取り込むために俺は口を開け、空気を口内に迎え入れた。
自慢じゃない…っていうか、本当に自慢じゃないのだが、俺の鼻は悪魔の中では悪い。
元が人間だから仕方が無いにしても、ケルベロスとは比べるまでもなく、ピクシーにも劣る。
だけどそんな俺の鼻でも、雨に半ばかき消された匂いを嗅ぎ分けることは出来た。
此処には…マガツヒが少ない。
絶対的に少ない。
その代わりに悪魔のにおいがする。
それに…なんだか不安定ではあるけれど丈夫そうだ。
「なるほど」
アイツが好みそうな世界だった。
此処はおそらく、もう人がいなくなって久しい打ち棄てられた世界なのだ。
人に寄生する悪魔が、その宿主を食い殺しつくしてしまった不毛の世界。
もう終わりに向かって坂道を転がるしかない世界だ。
だから世界としては不安定でも、終わりしかない世界だから丈夫なのだ。
そして此処にはもう悪魔しかいない。
本当に完璧だ。
あいつ好みの世界だ。

口をあけたまま空を見上げ、雨粒を口の中に貯めて飲み込む。
しょっぱさは感じない。
だけどほんの少しだけ血の味がした。
正面を見ると、その途端カッと空が光り、いくつにも枝分かれした巨大な雷が落ちた。
そして、その瞬間
「へぇ」
照らしだされたのは、西洋の古城…いや、ドラキュラ城という言葉がふさわしいような、真っ黒な城だった。
白い雨にけぶるドラキュラ城。
なんとも出来すぎ。
だがそれって惹かれるじゃないか。
特にあの男なら間違いなく。

「よーーーし、いくぞー」

おー。

一人で両手の拳を天に上げ気合を入れると、俺はテクテクと歩き出した。

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