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微笑の解放 02

にょロヴィ視線
なんかダラダラしてる。

ベッドに何枚もの洋服を並べ立て、私は姿見に自分の姿をうつした。
“結婚”前に買ったマルチン=ルテナのワンピースドレス。
“結婚”してしまったあとは、なんとなく着る機会を失っていた洋服。
今日はルートヴィヒが誘ってくれたから…今日くらいは…。
ズキリと胸が痛み、それと共に浮かんでくる色々な事に溺れないように私は小さく頭を振った。
私は何て罪深い女だろう。
だけどもう踏み出してしまったのだ。
ずっと伏せられたままの写真立てがおかれた棚からアクセサリーを取りだし身につける。
「私だって…」
その先は言葉にならなかった。



『七時に家につくから、準備を終えといてくれ』
「わかった」
『それと、行きたい場所があれば考えておいてほしい』
「うん」
結婚一年の夫婦にしてはぎこちない…だけど私たちにとっては随分と穏やかで親しい会話。
それが嬉しい。
だけど胸がいたい。

少し前は彼に随分とひどい言葉をぶつけられたものだ。
『なんでお前なんだ!俺に構わないでくれ!』
『お前の顔なんか見たくもない!』
『お前じゃなくてフェリシアーナだったなら…』
そして、それよりももっと辛辣な言葉。
暴力こそ振るわれなかったが、顔を見てあからさまにため息をつかれたり、眉間に皺を寄せられたり、顔を背けられるのは本当に辛かった。
だけど私はどれだけ傷つけられても…それでも一緒にいたいと望んだから。
あの時はそうでなければ、彼が死んでしまいそうで…彼が心配だったから……。
違う。
違う。
そんなのは言い訳。
本当はわかってる。
本当は……本当はっ……。
………。
本当に私は罪深い。
ひどい女。

私はきっと…地獄に落ちる。

 *

7時。
ピタリに家を出ると、殆どすぐに彼の車が滑り込んできた。
つい最近買い換えたばかりのBMW。
助手席に座り「お疲れさま」と声をかけると、彼はこちらをちらと見て微笑んだ。
その微笑みが嬉しくて…そして同時に走った胸の痛みに気づかぬふりをする。
「何処か行きたい場所は?」
そんなもの、気にするくらいならばこんな馬鹿な事はしていないのだから。
「貴方は?」
「同僚に、日本風のバーができたと聞いたがそこではどうだ?」
「バー?」
「あぁといっても、料理もかなり充実しているらしい」
「でも…」
彼は一時、完全にアル中に陥りかけていた。
昼間は死ぬほど働いて、夜遅くまで働いて帰ってきたかと思うと溺れるほどに酒を飲んで昏睡するように眠って…
もう大丈夫だとは思うが、それでも心配だ。
横顔を見ていると、彼は少し笑って「今日は飲まない」と言った。
「代行でもいいんだが…今日のところは一滴も入れるつもりはない」
「でも…」
他の人はアルコールを入れているのに、自分だけ飲まないというのは辛くはないか。
「やっぱり他のところにしない?」
「遠慮はいらない。久しぶりに出かけるのに」
私たちは何度か問答を繰り返したあと、結局その日本風のバーに行くことにした。

 *

一時期本当に廃人同然だった彼だが、近頃では本当に落ち着いてきた。
先程も言ったけれど、それこそ過労死という言葉がリアルにちらつく程に毎日毎日休日もなく働きまくり、そして夜中にようやく帰ってきたかと思えばリビングで延々お酒ばかりを飲んでいて、睡眠はほとんどとれていないようだった。
かなり強引に彼の妻になった私は、彼の会社に何度か電話をして早く帰してもらえるようにお願いしたり、迎えにいったり、少しの量でも栄養が取れるように料理を工夫したり…その中に睡眠薬を入れたことだって何度かある。
彼は私の顔を見るだけで嫌そうだったけれど…だけど…それで傷つているような時間的余裕はなかった。
とにかく彼に立ち直って欲しかった。
妹の後を追うなんて…なんて…そんな事は絶対にさせられないという意地があった。
絶対に…それだけは嫌だった。
妹が生きていれば…こんな出すぎた事は絶対にしなかった。
彼女がいきていれば…きっと私は笑顔で二人を祝福し、妹夫婦の姉を完璧に演じていっただろう。
私は妹とはそれほど仲がよくはなかったけれど、だからといって愛していなかったわけじゃない。
彼女が幸せになることは…その相手が“彼”だったとしても…素直に嬉しかった。
だって彼女…フェリシアーナは、私とは違ってとても人に好かれる明るくて優しくて…いい子だったから。だから、私なんかよりも幸せになるのは当たり前だし…その権利があったから。
だけど彼女が唐突にこの世を去ってしまった時…私に悪魔が囁いた。

そう。私は彼女が死んでしまった時、悪魔に魂を売ってしまったんだ。

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