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鎧う心に血の匂い

なんか…全く関係ない話に。

斎藤は暇を持て余していた。
普通ならこんな天気のいい非番の日には、愛剣の手入れをするか、それとも隊士たちの稽古をつけているか、自分の鍛錬をしているところなのだが…残念ながら、今日は剣(とそれに類するもの)に触れることを土方に一切禁じられている。
理由は昨夜の市中見回り。
不振な浪士達と斬り合いになった際、一緒にいた沖田と少々問題を起こした事に起因する。
浪士たちの人数は7人と奇数。
なんとはなしに数を争うように二人で切り捨てていき、最後の一人をどちらが取るかで争って…そしてその隙に逃げられてしまったのだ。
今考えると本当に馬鹿らしいことではあるが、その解きは少々血が頭に…いや、血の匂いに酔っていた。
最後の一人を取り合っていた時もだが、逃がしてしまってからがまたひどかった。
お互いすでに刀を抜いてしまっていたのがまた自体に拍車をかけた。
あの時…偶然にも監察の山崎が通りかからなければいったいどうなっていたか…。
いや…彼が通りかからなければ、このような罰は受けずに済んだだろうが…それよりも五体満足で今ある自信がなかった。

それにしても暇だ。

こんな時はどうやって時間を潰せばいいのだろうか。
9月も中頃を過ぎ、少しずつ色づきだした庭木を見上げると、その後には心なしか秋になり遠くなったような空があった。
斎藤がぼんやりと薄雲をみていると、誰かが近づいてくる気配。
その気配だけでそれが誰かがわかったものだから斎藤は振り向きもせずにいたのだが、その人物が思いがけず隣に腰を下ろしたので、少し驚いて顔を上げた。
「暇そうだねぇ」
そしてそんなことを言ったのは、昨夜斎藤と危うく殺し合いになろうかというところまでいった男。
斎藤は涼し気な沖田の横顔を見て、ふいと視線を逸した。
「僕も暇なんですよね」
「子供たちと遊んだらどうですか」
「それが…あの子たちときたら、今日はなんとか寺っていうところに朝早くから出かけちゃったらしいんですよ」
朝方からきつく説教をされ、昼過ぎに起きだした沖田は置いてけぼりをくらったというわけだ。
クスリと斎藤が笑うと、口を尖らせていた沖田もまたクスリと笑った。
昨夜は本気で殺し合いを演じる一歩手前までいった二人だが、普段は寧ろ仲がいい。
斎藤は先程…沖田が姿を表すまでは昨晩の諍いをすこしばかり尾に引いていたのだが、一度会話を交わしてしまえばそのわだかまりもすぐに解けてしまった。
沖田の方は言うまでもない。
「さっき暇で部屋でぼけっとしてたら土方さんが来て、暇なら文を書くのを手伝え…なんて言われちゃいました」
「それで?」
「するわけないじゃないですかー。僕は文字を書くのは苦手なんですよ」
それで逃げてきたという。
斎藤は土方の事を尊敬はしているが…しかし彼でも文を書くのを手伝うのは嫌だな…と思った。
沖田のように悪筆ではないし、彼のように知らない漢字を適当にごまかしたりなんかはしないが、それでもただ文机の前に座って筆を動かし続けるというのは剣を振るうのとは別の意味で疲れる。
「永倉さんは、暇なら釣りにでもいってくればいい…って言ってたんだけど、釣りってのもねぇ」
「そうですね…」
「屯所に時々いる犬っころと遊ぼうかとも思ったんですが、こんな時に限って姿が見えないし…嫌んなっちゃいますよ」
二人はなんとなく会話が続かずにぼんやりとえんがわに座り続ける。
居心地は悪くない。むしろいいとすらいえる。
空気は冷えているが、太陽の光は温かい。
虫の音がどこからか聞こえ、垣根を越えて赤とんぼが入ってきた。
その赤とんぼをぼんやりと斎藤が追っていると、コトンっと沖田がもたれかかってきた。
ちょいとばかりムッとして斎藤が押し返すように肩を動かすが…沖田は動かない。
「沖田さん…」
「いいじゃないですかー。眠いんですよー」
「眠いなら部屋にいけばいいでしょう」
「えー。嫌ですよー。折角、はじめちゃんがいるのに」
「いつだっているでしょう…。部屋の仕切りだって勝手に壊しちゃって…同じ部屋なのに」
「そんな寂しい事言わないでくださいよー」
「ちょっとやめてくださいよ…」
腰のあたりに抱きついてぐりぐりと頭を押し付ける沖田。
これは斎藤でなくてもうざったい。
「やめてくださいって…」
ゴツンっと容赦無く拳を振り下ろすと、沖田は斎藤から離れてごろりと寝転がった。
欲求不満…と顔に大きく書いて目をとじている沖田。
斎藤はそんな沖田を見てため息をついた。
「副長も…いい罰を思いつきましたよね」
「ねー…」
「私たちには外出禁止や、禁酒なんかよりよっぽどききますね」
「ねー…」
ぐでんぐでんの沖田。
ふわふわとそよぐ色素の薄い髪。
それを見ていると、同じくらいつらい目(?)に合っているにも関わらず、斎藤はなんだか沖田が気の毒になってきた。
斎藤は手を伸ばし少し長めの前髪に触れた。
沖田はそれに気づいて斎藤の方を見ると、ニコリと微笑んだ。
そうしていると沖田はなんというか…犬っぽい。年上の隊士たちにかわいがられるのもわかるような気がする。
「そうだ。ねぇはじめちゃん。一緒に甘味屋にでもいきませんか?」
「甘味屋?」
「えぇ。ずんだをつかった新作の甘味があるらしいですよ」
「ずんだ…」
ずんだ…以前に斎藤は甘味は苦手だ。
しかしこんな日くらいはいいかともしれない。
斎藤ガコクリとうなずくと、沖田は「やった!」と声をあげて飛び起きた。

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