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鮮麗なる座礁

上と同じ世界観
どっちかがどっちかの家に遊びにきてる

隣の部屋でアントーニョがなにやら怒鳴っているのを聞きながら、フランシスはとなりのキッチンで昼食を作っていた。
今日の昼食はシーフードトマトのオムレツにクロワッサン、そしてポテトのサラダだ。
タコ、エビ、イカ、アサリの入ったトマトソースをふわふわの玉子にかけて出来上がり。
トレイにそれらを置いた時にはアントーニョの声も消えていて、フランシスはにっこりと微笑み「出来たよー」と、隣の部屋へと入った。

 ※

「あのさー…せっかく上手く出来たっていうのにそんな嫌な顔しないでよ」
不満そうな顔をするフランシスの正面には、彼以上に不満そうな顔をしたアントーニョいて、オムライスにスプーンを乱暴にぶっさしている。
いつものアントーニョは彼の出身国であるスペインの太陽のように明るく穏やかであり、こんな表情を見せるのは珍しい。…珍しいといえば、先ほど怒鳴っていたのもかなり珍しいことではある。
アントーニョはムスッとしたままオムレツを口にいれ、もぐもぐと咀嚼した。
静かな食卓、食器がカチャカチャと小さく鳴る他は会話もない食卓。
それにしびれを切らしたのはやはりフランシスで、「どうしたの」と口を開いた。
不機嫌の理由はおそらく先ほどの電話。“仕事”に関することだろう。
仕事についてはお互いにあまり干渉しないようにしており、あまり口を突っ込みたくはないのだがこんな風に不機嫌そうな顔で、美味い料理を台無しにされるのは料理人としてのフランシスのプライドが許さない。それになにより料理に対する冒涜だ。
「ほらほら、お兄さんに話してごらんなさい」
割と面倒見のいいフランシスが促すと、アントーニョは仕事の仲介をしているある男の名前を上げた。先ほどの電話の相手はどうやらその男らしい。
アントーニョに仕事を仲介している男は何人かいるのだが、その男は“外”の人間であり“身内”ではない。だが彼からやってくる仕事は“身内”からのものである。
つまり、一度、話を外部に出して置きたい場合に使われる男で…彼から話が来ると言うことは、話がかなり込み入るということだ。
何故、一度外に出す必要があるのか。それについては理由が幾つか考えられるが、二人はあえて詮索はしない。
チェスでも将棋でも…そして彼らも同じ。
駒は何故とはきかないものだ。
「長くかかるのか?」
不機嫌の理由はそんなところだろうと予測を立ててフランシスが聞くと、「それもあるけど、イスラエルまで行かなあかんねん」とふてくされる。
「イスラエル?そりゃまた…」
言いかけて彼の不機嫌の理由が仕事の内容でもイスラエルに行くことについてでもないことにフランシスは気づいた。
「飛行機か」
フランシスが予想を口にすると、アントーニョはまたまた不機嫌に小鼻に皺を寄せた。
アントーニョは昔から飛行機が嫌いなのだ。(“怖い”でも“苦手”でもなく“嫌い”だ。これを間違えるとアントーニョは不機嫌になる)
「海路にしてくれっていうたんに、時間がないからいうて…」
「ってことはすぐに発つのか?」
フランシスが尋ねると、アントーニョは「今夜や」とぶっきらぼうに返した。
「そりゃまた本当に急だね」
「ほんまかなわんわ」
砂でも噛むように自慢のオムレツを咀嚼されるのは嫌なものだったが、理由を聞いてフランシスはそれも仕方がないと納得した。
「どれくらいかかりそうなんだ?」
「早くて一週間。長くて3ヶ月やって…でも、現地になれる必要があるから少なくとも1ヶ月は覚悟しておけやて…」
「あらあらあら…大変だねぇ」
「あらあら大変やあらへんわぁ…もう、ギルベルトに回してくれたらええんに」
そう言ってぐさぐさとフォークをポテトサラダに突き刺すのは、ギルベルトがドイツ人だからだろう。
ここにもしウィンナーが並んでいれば、きっとそれも穴だらけにされたにちがいない。
「あぁ、ギルベルトね」
アントーニョとギルベルトの仕事は“近い”。だからアントーニョの仕事はギルベルトが請け負うこともたまにある。だがギルベルトのそれにはアントーニョと違って仕事に対し一切制限がかけられないため、被害は相当大きくなることを覚悟しなければならない。
「あいつはダメでしょ。つい先日、出てきたばっかだろ?」
今はまだ警察も特別警戒中。
その前に、ギルベルトが弟から離れたがらないだろう。何しろ彼は、“弟が不足”してしまうととにかく機嫌が悪くなるのだ。つまり…今のアントーニョの比ではなく…恐ろしいことになる。
「あーも、あかん。まじ憂鬱や」
とうとうアントーニョは食器を放り出して食卓に額をつけてダダをこねだした。
「ややねん、イスラエルとかぁー…もぅいやや…やって今、夏やで?」
「ん?」
「だから夏やねんって!もうわかるやろ?」
何が? 言いかけてフランシスは気づいた。
なるほど彼は飛行機に乗るのも嫌だし、長期間イスラエルくんだりにいくのも嫌だが、それ以上に…
「ヴァルガス兄弟か」
「それや!」
夏の長期休暇には必ず、フランシスとアントーニョのもとに預けられる二人の兄弟の事が気にかかるらしい。(アントーニョは二人のことをとても気に入っている)
フランシスはついさっきまで忘れていたが、今年もそろそろその時期が来ている。
「そうか、そんな時期かぁ…でも一ヶ月って…」
「あかん、俺もうあかん。フェリちゃんにロヴィに会われへんかったら、俺、しなびてしまう」
「しなびるって…」
「フランシス、仕事かわってくれへん?」
「おいおい…俺にお前の仕事ができるかよ…」
ギルベルトとアントーニョの仕事は似ているが…フランシスの仕事は全く別だ。
代わりができるわけがない。
それはもちろんアントーニョも知っていて、先ほどの言葉も口にしてみただけなのだろう。すぐに「あかんかぁ…」と諦めたように言った。
「まぁまぁそう気を落とすなって。お前ならなんとかやれるさ」
「そんなんわかっとるわ」
「だから、最速だと1週間なんだろう?それ目指してやっちまえよ。お前ならできるって」
そうだろ?
それは気休めでしかない言葉で、全く慰めにもならない。
拗ねに拗ねまくったアントーニョはずるずると椅子からも滑り落ちると、ラグの上で「いやや、いやや」と幼稚園に行くのを嫌がる子供のようにゴロゴロと転がってダダをこねだした。
そしてそんなアントーニョを、フランシスはママのように「仕方がない子だねぇ」と言いながら見つめるのだった。

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