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抒情詩

今、私たちの世界は二つの国が強い力を有しており、その二国とそれに属する勢力が指導権を得ようと凌ぎを削っている。一つをガストラ、そして一つをバロンという。どちらも巨大な軍事国家である。
といっても戦争状態にあるわけではなく小さな小競り合いを繰り返す二国は、巨大な企業である新羅により微妙なバランスが取られており、臨戦状態にありながらいまだ大きな花火が上がったことはない。
この3つの勢力の内、一番のくせ者は疑うべくもなく新羅である。
新羅は企業でありながら自らも中堅国家と同程度の力を持っている。新羅はバロン、ガストラ両国に武器を輸出しており、二国のパワーバランスの舵をとっているとも言われ、また世界各地に点在する傭兵育成および輸出機関であるガーデンにも多額の出資をしているとまことしやかに囁かれている。つまり、ガストラとバロンの対立により巨万の富を得ているのだ。
もちろんガストラとバロンもその現状を理解しており、彼らは商売相手として表面上は新羅と仲良く手を繋ぎつつ…しかし、左手にはナイフを忍ばせている。
新羅もまたそれを承知しており、今は着々と力を貯めている所…。
世界は今や三すくみ状態であり、その3勢力に属さない人々…または戦争を望まない人々は密かに第4勢力の台頭を期待している。
その勢力については、世界最大の傭兵輸出機関であるガーデンが有力視されているが、現在は未だガーデン同志の連携がとれておらず第4勢力にはまだ遠い。
また、各地で芽吹いているレジスタンスや、“エボンの教え”なるものを信仰する宗教組織、現在は完全な鎖国状態にあるエスタ…または中立を守っている国々による連合等がそれになりうるという予想もされてはいるが、今現在は現実的な話とは言えない。

 ※

「セリス将軍、こちらにおられましたか」

城の高い場所に立ち城下町を見下ろしていると、兵士が息を弾ませてやってきた。
「なんだ」
意識して尊大に振る舞うと、彼は背筋をピンと伸ばしてレオ将軍が私を探していたと言った。
「レオ将軍が?」
「はい、何でも急用ができたので客人の案内を任せたいとか」
「客人…?エブラーナの利かん坊か」
私の言葉に困ったような顔をする兵士を無視し「案内しろ」と告げると、彼は先にたって歩き出した。

エブラーナは“忍者”と呼ばれる兵士を使う一風変わった文化を持つ中立国家だが、どちらかというとバロンに近い国だ。
その国を皇帝は前々からこちらの陣営に引き入れたいと考えておられ、今回、その王子を帝国へと招かれたのだ。対談の結果はしらないが対談自体はすでに終了しており、最後の滞在日は市井の宿を希望しているらしい。
その市井の案内をレオ将軍が任されていたのだが、急用ができてしまった為、急遽非番であった私にお鉢が回ってきたというわけだ。
これも国に務める将軍の務め…とはいえ、エブラーナの王子はかなり曲者だと聞いているので憂鬱だ。

「レオの代理を務めます。セリス=シェールです」
きちりと挨拶をし軽く頭を下げると、エブラーナの王子…確か名前はエドワードといったか…は目を見開き驚いたような表情を作った。
「何か?」
「いやいや」
彼は薄い布に隠された口元に手を当て、ニヤリと目を細めた。
「セリス将軍の名は聞いていたけれど…その評判に勝るとも劣らない美人だな」
「…それは光栄です」
失礼ないいざまに今すぐこの男を殴りつけて黙らせたくなったが、国賓を殴る訳にはいかない。私は自分をぐっと押さえつけ、頭を下げた。
「綺麗な金髪に白い肌、細い顎…ローザにちょっと似てるが、あんたのほうがトゲが多そうだな」
ローザ…?彼の恋人の名前か…?と思ったが、しばらくして思い出した。
「…ローザ=ファレルのことですか?」
名高いバロンの美女の名を上げると、「お」と声を上げてエドワード王子はチシャ猫のように笑った。
「あんたも知ってるのか?ローザ=ファレルを」
「直接には。しかし、彼女の写し絵はガストラでも広く出まわっていますから」
此処でいう写し絵とは画家が描いた肖像を印刷したものの事を差している。
残念ながら写真はない。というのは技術的に無理だ…という意味ではなく、彼女の写真は出まわっては居ないという意味だ。
「写し絵か」
フンっと馬鹿にするようにエドワード王子は笑った。
「あんなまがい物じゃあの女の美しさは伝わらねぇだろうなぁ」
「そうですか」
敵国の将のかんばせならまだしも、ただ美しいだけ女性には興味がないので適当に返すと「妬いた?」などとくだらない事を返すので、私は無視して「案内しましょう」と彼の先を立って歩き出した。

ハイテクを誇る新羅ほどではないが、我が国も近年早いスピードで近代化が進んでいる。古い町並み、その中に時折にょっきりとビルディングが立っている様は妙なものではあるが、それがまたエドワード王子には面白いらしく目を輝かせていた。
街中に流れている音楽や、風変わりな風体をした若者、ペットロボットなどについて質問がとんだ。
「あれは?」
そんな彼が次に目を向けたのは、街灯に付けられた黒いボックスだった。ボックスには丸い穴が開いており、そこからガラスのレンズが覗いている。
「あれは監視カメラです。1ブロック毎に設置されています」
「監視カメラか。つまり町の人間はアレにずっと見られてるってわけだな」
「えぇ。カメラで捉えられた映像はリアルタイムで中央で監視されており、いざという時に備えています」
「いざという時?」
「いざという時です」
具体的にどのような時を聞きたかったのだろうが、私はすまして答えた。
「俺も監視されるわけだな」
「“貴方”をというわけではありません」
これは嘘だが、それくらいは彼も承知していることだろう。彼は、明日この街を出ていくまでずっと監視下に置かれるのだ。つまり最優先でカメラが捉える人物ということになる。
「しかしあれ1台じゃ全てをカバー出来ないだろう」
「そうですね。ですが警備兵も定期的に見まわっていますから」
「犯罪の発生率は低下したのか?」
「順調に」
「ふん。けど俺は気に食わねぇな」
「そうですか」
これまた興味がない。
彼が気にいろうが、気にいるまいが、全くどうでもいいことだ。
素っ気ない態度の連発にエドワード王子は気を悪くしたのか、眉間に皺を寄せた。
「あんた可愛げがないって言われないか?」
「…ご案内する宿屋は向こうです。行きましょう」
思わず一拍開いてしまった私の返答に「図星か」と彼が笑う。
全く失礼な男だ。私はますます彼の事が嫌いになった。

「こちらです」
彼を案内したのは割と老舗の宿である。先ごろ改装したばかりのその宿の名は「銀の狐亭」という。一階に食事もできる大きな酒場が入っており、2階、3階が宿泊施設になっている。もっと高級な…ホテルと呼ばれるような場所もありはするのだが「大衆的な宿」というのがエドワード王子の要望だった。
私はまっすぐにホールをつっきるとまっすぐに宿の女将のもとへと向かい、キーを受け取った。そしてすぐそばに来ていたエドワード王子にそれを渡す。
「こちらが鍵です。二階の端の部屋になります」
つまり、この宿で一番の部屋ということ。
「あぁありがと」
彼は鍵につけられた細いチェーンに指をかけ回すと手のひらに握り込んだ。
さて私の案内はここまで。ようやく終わった。
適当に挨拶をして立ち去ろうとすると「待てよ」と呼び止められた。
「なんでしょう」
「もう帰るのか?」
「他にどこか案内が必要なところでも?」
我ながら素っ気ない応答だが、仕方がない。私には彼のような軽い人間は合わないのだ。
もうこれ以上会話はしたくないし、顔を見合わせるのもゴメンだ。
「そうだな。賭博をやれるところは?」
賭博ですって?
私は自分の顔が一段とキツくなるのを意識しないではおれなかった。
「すみませんが、ガストラでは賭博は一切禁じられています」
「なんだ。そうなのか。つまらねぇ。…じゃぁ娼館は?」
帝国の女の味が知りたい。
そんなことを白々という男。
私は彼に斬りかかりたい欲望を抑えるのに最大限の努力を要した。
それでも抑えきれぬ怒りを視線に込めてやるが、彼は一向に動じず、「あんたでもいいけど」などとふざけた事を言ってきた。
私を娼婦替わりにするだと?
こんな屈辱は初めてだ。
彼が国賓でさえなければ直ちに叩き切っているところだ。私は彼に黙って背を向けた。
国賓に対する態度ではないことは承知している。しかしこれ以上は私の理性が持たない。

城の自室に戻ってもイライラが取れず、書類を整理しようにも本を読もうにも一向に集中できない。
私の脳裏をちらつくのは、あの下品な王子のことばかり。
私は奥歯を噛み締め、拳でクッションを殴りつけた。
「あぁ、いらいらする」
そう言葉に出しても一向に気持ちは晴れず、私は闘技場へと向かうことにした。
あそこに行けば兵士なり新兵なりが稽古をしているはずだ。彼らには気の毒ではあるが、憂さ晴らしに付き合ってもらおう。
そう決めて、一度は脱いだ鎧をもう一度身につけていく。
その途中…ふと頭をよぎったものがあった。
"もしかして…エドワード王子は、私をわざと怒らせたのではないか…?"
その考え私はゾクリと震えた。
まさか…いや、しかし…。
それは十分に考えられることのように思えた。
彼はガストラの将軍の人となりを見るためにわざと挑発した…?
それが事実だとすれば…私は…
ぎゅっと拳を握り締める。
なんという失態…ッ!
私はカッと顔が熱くなるのを感じると共に、どこにぶつけようもない怒りに身を震わせた。
考えれば考えるほどに、あの男がわざと私を挑発したようにしか思えない。
そうだ。そもそも一国の王子になるべく生まれた者があのように下品な振る舞いをすると思うほうがそもそもおかしい!
あぁ、私はなんと未熟なのだろうッ!
彼はきっと“ガストラの女将軍はすぐに挑発にのる。御しやすい”と思ったに違いないッ!
なんという大馬鹿者だろう、私はッ!
私は自分の未熟さに歯噛みすると同時に、エドワード王子に対する評価を改めなくてはならなかった。
あの王子…侮れない。

私は心が掻き乱されたまま闘技場へと向かい、がむしゃらに剣をふるった。
そうして二時間あまりもたっぷりと汗をかくと少し気分も落ち着いてきた。
済んでしまったことは仕方がない。
私は汗をタオルで拭い、やけに騒がしい場内を自室に向かって歩きつつ考える。
私が未熟なのは事実だ。それを後悔してもしょうがない。だが、反省することには大きな意味がある。
ここは前向きに考えるべきだ。
いい勉強をさせてもらった。そう考えるべきだ。
あのちゃらんぽらんしているようで狡猾な男には腹が立つし、“馬鹿だ”と思われるのは心外ではあるが、そう思わせておけばいい。
確かに私は未熟だった。だが、次はこうはいかない。
次からはこの反省を活かし、精神的にももっと… と、そこで自室の扉をあけた私は、自室に酒瓶を片手に立つエドワード王子の姿を見て、思考が一瞬空白になった。
「よぉ、セリス。一杯やらないか?」
な、何故こいつが此処にいるッ?
何故私の部屋がわかった?
きちんと施錠しておいたはずなのに…
もしかして先ほど場内が騒がしかったのは、コイツが宿を抜けだしたからか?
「お、汗なんかかいちゃって、色っぽいねぇ~」
「…ッ」
ハッと我に返った私は帯刀していた剣の柄に利き手を添え、もう一度彼に対する評価を訂正することにした。

やはりコイツはただのスケベなちゃらんぽらん王子だ!!!
エッジがただのちゃらんぽらんか、それとも何か考えがあってか…についての考察は、読者の皆様のお考えに一任いたします。

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