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息が出来ない

マニクロ
望んで落ちて(ルシ様endじゃなくて)、そして誰もいなくなった。
あー…題名と全く関係ないです

朽ちた事務所に人気はない。
きっともう軽く十年は放置されているのだろう。
床はところどころ抜け、壁に立てかけられたビリヤード台には蜘蛛の巣が何重にもかけられ…それでいて蜘蛛自体の姿はない。椅子が横倒しになっており、ねずみの死骸が転がっていた。カビっぽい空気、天井には雨漏りの跡と共に大きな穴が一つ開いている。壁紙は剥がれ、赤いスプレーで卑猥な言葉が書き殴られていた。
部屋は全体的に真っ白な埃が雪のように降りつもっており、何処か寒々しく…そして物悲しい。

弱い…ごく弱い力しか持たぬ者の召喚に応じたのは間違いだった。

悪魔は自分の軽率な行動に後悔した。
近いといえば近いが、遠いといえばどこよりも遠い。
この場所、この時に、ここに彼はいない。
あの男がいたのがここなのか、それともまったく別の場所なのかも彼には判断がつかない。
彼はあまりにも力の違う青年の呼び掛けに応じてしまったため、本来の十分の一の力も発揮する事が出来ないのだ。
「ケルを呼べたら」
彼は地獄の白い番人を思いだし呟いた。
「彼ならば、あいつが此処にいたのかどうかわかっただろうに」
それの敵わぬ悪魔は辺りをもう一度見渡しなにか彼の痕跡を見つけられやしないかと慎重に目をこらしたが…確信を持ってそれが彼の人のものであると言えるものは一つも見つけることは出来なかった
せめて…此処が彼がいた場所だとわかれば、彼にたどり着く手がかりになったかも知れないのに…。
無数にある世界・宇宙…そしてそれをまた内包した無数のアマラ…。
その無限の世界でたった一人の男を探すなど、サハラ砂漠の中でたった一粒の金の粒を探すよりも困難極まりない。
だから外れて当たり前、出会えなくて当たり前…なのだが、やはり落胆は隠せない。
彼は大げさにため息をつき…そして肩を震わせ小さく笑った。

「まったく…もう何が目的かなんて覚えてやしないくせに」

自嘲。
そう…もう忘れてしまっていた。
彼を見つけてどうする気だったのか。
何を話したかったのか、それとも聞きたかったのか。
彼に好意を持っていたのか、敵意を持っていたのか、それとも殺意を持っていたのか。
それどころか、果たして彼がどんな声をしていたか、どんな顔をしていたか、彼の名前すら…もうわからない。
それだというのに、彼の影を追う自分を滑稽だと悪魔は思っていた。
しかし、それをやめることは出来なかった。
彼を探しだすこと…それは彼が彼自身の魂(もしそう呼べるものがあるのならば…だが)に刻んだ至上命令だ。
意味は忘れてしまったけれど、“彼を探しだす”ということだけは残っている。
それを無視したらどうなるのか…それは何度も考えたが答えはでない。
だが悠久にも近い時を持つ彼にとって、その選択はなかった。
ありあまる時間。
“ご同僚” は、人を堕落させること、人を殺すこと、人の営みを破壊すること…そんなことにしか興味をもてないでいるのだ。
自分には一つなりともやることがあるというだけ幸せかもしれない。

“おーい!何処に居るんだ!!?”

その時、ふと頭の中で声が聞こえた。
彼は頭に手をやり、不機嫌そうに顔をしかめる。
渡ってくるには、召喚に応じる必要があったとはいえ…力の弱すぎるものが契約主であるというのは彼にはとても不快だった。

“出てこいよ!!!ヒトシュラ!”

彼は奥歯をギリっと軋ませる。

コロシテヤリタイ。
クッテヤリタイ…イヤ、ヒキサイテヤリタイ。
ソウシテ エンエン ニ アマラ ノ ウミ ヲ サマヨワセタイ…

だがそうはしないことを彼は知っている。
悪魔である彼は、召喚に応じた彼は、そこいらの悪魔よりも強大な力を本来持つ彼は…制約が多い。
だが、それを逆手に取る事を彼は知っている。
いつの間にか上手くなった“囁き”。
それに逆らえるものはそうそういない。

そう、あのガキの耳元でちょいと囁くのだ。
そうすればあのガキは身の程を考えずに、ですぎた願いを口にするだろう。
払いきれない代償。
それを取り立てるのもまたいつの間にか彼は上手くなっていた。

「わぁかったよ…」

舌打ちをして姿を霞にする。
その最後の瞬間…何か赤い者が彼の視界を横切ったように見えたが…彼はそれを気のせいと、気にもとめなかった。

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