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色彩倫理

モブ と 東西
自分だけ楽しい。たぶん他の人が読んでも面白く無い

おじいちゃんが僕の家に一緒に住むことになった。
おじいちゃんは嫌だって言ってたけど、「一人じゃ心配だわ」ってママが言って、「なんにも遠慮なんていりませんよ」ってパパが言って、僕が「僕、おじいちゃんと一緒がいいな」って何度も言ったら、「じゃぁそうするか」って言ったんだ。
だから今日はみんなでおじいちゃんの荷造りと、おじいちゃんの家のお片付けなんだ。
おじいちゃんが住んでた家は貸し出すからピカピカにするんだ。

パパとお手伝いのお友だちが大きな書机をどうやって運び出そうか相談している。
ママはキッチンで持っていく食器を選び出している。
おじいちゃんは書斎で持っていく本を選んでいて、僕は雑巾であちこちを磨いてまわった。
階段の手すりはもうピカピカ。ノブもきれいになったし、次はどこを磨こうかな?って思ってた僕が目をつけたのは地下室だ。
ここはほとんど誰も入らないからきっと誇りだらけだぞ。僕は電気をつけると、ゆっくり地下に降りていった。
そしたら…中は大きな段ボールでいっぱい!あとは作業台にふるーいテレビ。大きなよくわからない機械に動かない時計。ホコリだらけのギターもあった。
なんだかすごいな。
僕はわくわくしながら、段ボールを一つ開けて中を見た。中身は…ペンキ缶がいっぱい。なんだつまんない。
こっちは…子供の頃のお母さんのかな?ぬいぐるみがいっぱいつまっていた。
そしてこっちは…
「あっ、写真がいっぱい!」
古い写真がいっぱいだ!
「すごーい」
大きな写真や小さな写真。
写っているのは、街を写した写真や人々の写真。犬の写真に、自転車の写真。ポストに鶏に料理に山に…
「あれ?」
でもなんでだろう?
「ママやおばあちゃんがいない…」
おじいちゃんがとったものじゃないのかな?って思ってたら…
「こんなトコにいたのか」
パパがやってきた。
それでパパに写真を見つけたんだけど、ママやおばあちゃんの写真がないんだよって教えたんだ。そしたらパパは段ボールを覗き込んで「あぁ、お仕事の写真だからね」っていった。
「しらなかったのかい?おじいちゃんはプロの写真家だったんだよ」
「えっ!ほんとう?!」
僕が驚くと、パパはなんだか嬉しそうに頷いた。
「うん。ここは写真を現像するのに使ってた部屋だって聞いたことがあるよ」
「へぇ、そうなんだ」
「探せばもっともっと写真がみつかると思うけど…」
そう言ってパパはあたりを見渡し、「おや」っ積み重ねられた段ボールの上から額縁をひとつ手にとっておろした。
そして埃で真っ白になったガラスを僕がもっていた雑巾でぬぐうと、「お、軍人さんだ」といって僕に見せてくれた。
そこに写っていたのは確かに軍人さんだった。
白黒の写真で、二人が木箱に腰かけて話している。カメラには全く気づいていないようで、スナップ写真みたいだ。
「いい写真だなぁ」
写真をまじまじと見てパパが感心したようにいった。
だから僕も…本当はよくわからなかったけど「そうだね」って言った。
向かって右側に座っている軍人さんは身体は正面を向いているけど、顔は隣に座った軍人さんを見ていて、左側の軍人さんは体ごととなりの軍人さんを見ている。
どちらも横顔だけど、とってもかっこいい人だってわかる。
「ねぇ、パパ。もしかしたら、どっちかは戦争で亡くなったっていうおじいちゃんの弟じゃない?」
僕が思いついて言うと、「もしかしたらそうかもしれないね」ってパパが言ったから僕は写真の入った額縁を持っておじいちゃんに聞きに行くことにした。

 *

「おじいちゃん!」

僕は本をダンボールに閉まっているおじいちゃんの元へと行くと「これっておじいちゃんの弟?」って聞いて、額縁を見せた。
するとおじいちゃんは驚いたように目を丸くして、それからにっこりと優しく微笑んだ。
「やっぱり!」
って僕は興奮したんだけど、おじいちゃんは「違うよ」って言って僕から額縁を受け取った。
「私の弟は、こんなにかっこよくはなかったなぁ」
そういって優しい目で写真を見る。
「そうなの?」
「あぁ、私の弟はもっとちびでヒョロンとしていた」
そういっておじいちゃんは椅子に座ったので、僕もその隣に座った。
「それにしても懐かしいなぁ…一体これは何年前だろうなぁ」
「少なくとも僕が生まれる前だね」
僕が言ったら、おじいちゃんは笑って僕の頭を撫でた。
「いい写真だろう?」
「うん。パパもいい写真だっていってたよ」
「そうだろう。これはなんたって新聞社で賞をとったんだからな」
「えっ!本当?!」
「すごーい」と僕が言うと、「すごーいだろ?」とおじいちゃんはウィンクした。
「まぁ…残念ながら表彰はされなかったけどね」
そして肩を落とした。
「どうして?」
「ん?あぁ…この写真はダメだって政府に言われたんだよ」
「ダメ?」
「そう。だから写真もネガも取り上げられてね。これはこっそり私がとっておいた予備の一枚さ」
僕はおじいちゃんの話がよくわからなくて首をかしげた。
「どうして賞をとったのにダメになったの?なんで取り上げられちゃったの?」
軍人さんが休んでいるから?
それともお話ししているから?
右側の人が笑っているから?
それとも????
僕は沢山質問したんだけど、おじいちゃんは何一つ答えてくれなかった。
ただ頭を撫でて「もしかしたらお前にもわかる日がくるかもしれないね」って言って、その写真に目を細めていた。

 *

それから20年と少しの歳月が経ち、祖父は亡くなってあの写真は僕が受け継いだ。
小さい頃は良さがイマイチわからなかったあの写真だが、月日が経つにつれ僕にもだんだんとその良さがわかってきた。
彼らの穏やかな雰囲気はもちろんだが、よくみれば、軍人たち…としか認識していなかった二人はよく見れば軍服が違う事に気づく。
右側の男は東ドイツのもの。
そして左側の男は西ドイツのものだ。
木箱に座る二人の足元には一本線が引いてあり…それで西と東の境界線だとわかる。
右側の笑った男はとても楽しそうで…そして、左側の男は少し憂いを帯びた表情をしている。
そしてまたよくよく見れば二人の顔立ちが似ていて…もしかしたら兄弟なのではないだろうか?
だとすれば…この写真一枚にどれほどの物語が詰め込まれているのか…。
おそらくこの写真が撮られたのは冷戦の真っ只中。ドイツは…そして写真の中の兄弟は2つに引き裂かれ普段は会うことはできない。
そんな二人がどうしてこのように顔を合わせる事になったのかはわからないが、互いに境界線を挟んでしばしの談笑を時間を惜しんで楽しんでいるのがわかる。
いい写真だ。
本当にいい写真だ。
その時代をちらとでも知っている者が見たならば思わず涙を誘われ、そして知らぬ者が見てもまた心を動かされる一枚だ。
だがよくわからないのは、冷戦中、東側の政府がこの写真を発禁扱いにしたというのならわかるが…祖父がいたのは西側だ。この写真は西側でなら特に問題しされない…むしろいいプロモーションになったように思うのだが…。
しかもネガまでとられるとは穏やかではない。
僕は常々不思議に思っていて、この写真を誰かに見せて話を聞きたいと思っていた。
だがそれをしなかったのは、祖父がいつも言っていた「もしかしたらお前にもわかる日がくるかもしれないね」という言葉のせいだ。(それに祖父が隠し持っていたというのももちろんある)
僕は、いつか、何故この写真が政府に取り上げられなくてはいけなかったのか…それが自分の力でわかる時が来る…そんな風に思って、誰にも聞けず…聞かずに本棚の間にその額縁を隠していた。


そして今日、思わぬ形でその答えを知ることになった。

大学を出て銀行で働いていた僕は、知り合いからの引き抜きで政府高官であるさる人物の秘書官にならないかと誘われた。
僕は少し迷ったが、知り合いが是非にといったのでその誘いにのることにした。
ネクタイをきちんと締めて、髪をなでつけ、おかしなところはないかと何度も鏡でチェックして、その人が待っているというオフィスビルへと向かった。
知り合いが言うには、新しい上司はかなり見た目は若いが、かなり地位の高い人物であるらしい。
ちらと耳に挟んだところでは首相や大臣たちとも懇意であるらしい。
一体どのような人物なのだろうか。
僕は緊張しながらノックをし、そして部屋に入ってデスクに座る人物を見た途端、雷にうたれたような衝撃を受けた。

彼は…知っている。
あぁ、彼だったのか。
彼ならば納得できる。
たしかにあの写真は、一般聴衆の目にさらされるのは都合が悪いだろう…。
貴方は…

「我が祖国」

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