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甘く魅惑的な欲望

ここ数日どうも熱っぽい。
頭がいたいわけでも、食欲がないわけでも、咳が出るわけでも、寒気がするわけでもない。
だが無性に喉がかわいて、動悸がして体が熱い。
風邪の症状にも思えるが、少し違うような気もする。
それを兄に漏らすと、

「お前、ヴェスト、そりゃ発情期じゃねぇか?」

と言われた。
何をバカなと一蹴しようとしたのだが、兄の妙に真剣な表情を見て居住まいをただした。
「兄さんは俺たちには発情期があると?」
冗談であってくれと願いながら聞くと、兄はあっさりと頷いた。
「あぁある。いや、あるとされている」
「あるとされている?」
「あぁ。何しろ特定の相手(国)にしか反応しねぇしな。症状だって相手に合わない限りは軽いし、風邪だと流しちまう方が断然多いんだ。だから、本当の意味で罹ったことのある奴はそれほど多くはない。だけど、そういうものがあるらしいというのは大抵の国は知っているし、経験した事があるやつだって少なくはないはずだ」
兄が言うには発情期間は長くて1ヶ月程度。
その期間に相手と交接しなければ、また数年から半世紀の長い潜伏期間に入るのだそうだ。
ちなみに俺たち“国”という存在は人の形をとっているから、別に発情期でなくても…つまり、そういうことはできるが、それと発情期とはまた別種のものであるらしい。
…というか国が国を相手に発情期…?…それで結ばれたところで、俺たちに子供など作れるはずもないと思うのだが…。
「それで…もし相手に会ったとしたらどうなるんだ?」
一抹の危惧を抱きながら聞くと、兄プロイセンはますます渋い顔をした。
「そうなりゃ…キツイな」
「キツい?」
「あぁ。ある国Aが発情したとする。するとその相手の国Bも大体同じ時期に発情するんだ。そしてAとBが出会っちまったら…そりゃもう」
「そりゃもう?」
聞き返すと、わかるだろ?とでもいうようにプロイセンは肩をすくめた。
「もうAもBも相手の事しか考えられない。盛りのついたネコと一緒だ。まぁ、しばらくすると症状は安定するらしいが、症状が長引いたり、ちょうどその時期に経済が不安定になってたりなんてすると、それこそ身を滅ぼす恋だな」
そこで兄がいくつか上げたのはかつて滅んだ幾つかの国の名前だった。
「同時に滅ぶなんてことはないが、生き残った方もまず長くはもたねぇ…」
兄は目を伏せ、首を横に降った。
もしかして…兄にもそんな経験があるのだろうか?
聞いてみたいような気にもなったが、聞いてはいけない雰囲気…
じっと淋しげな兄の横顔をみていたのだが…
「……の野郎…大体、なんで俺の相手があのクソ野郎なんだよ!!!」
………何かが違ったようだ。
いや、確かに聞いていはいけない事は確かであるらしいのだが…
「くっそー…所詮、生理現象…俺には相手は選べねぇとはいっても、アレはねぇだろう!アレは!!!おかげで俺様がどれほど………」
ブツブツという兄を見て、俺は大きくため息をついた。
どうやら“相手”とやらと悲しい別れをした…ということではないらしい。
「まぁ…大丈夫そうで何よりだな」
「あったりまえだ!俺はその時期になるとアイツを避けて避けて避けまくってるからな!」
ケセセっと自慢気に胸を張る兄だが、果たしてそれは自慢になっているのかなっていないのか…いや、彼が此処にこうしているということは、そして俺がドイツとして彼の横に立っているということは“逃げまわった”のだとしてもやはり自慢なの…か?
「しかし、そんな話は今まで聞いたことがなかったぞ」
「あぁ。発情期になると相手を知らないヤツも、風邪で済ませるために極力他の“国”には合わないようにしてるみたいだからな」
それに相手のいない(見つけていない)国の発情期から発情期のスパンは長い。気づかなくてもおかしくはないだろうと言う。
「そうなのか」
と、頷きつつ…此処まで言われても俺は少し兄を疑ってしまう。
大体、国に発情期があるなどと…本当か…?
発情期…だぞ?
年がら年中発情しているようなフランスはともかくとして…他の国にもあったというのか…?
というか、俺は随分と長生きをしているはずだが、今回が初めてというのは少々遅すぎやしないか?
「ちなみに…その相手を愛おしく思うなんてことは…」
「ないない、あるわけないだろ!」
兄は絶対にありえないと嫌な顔をして手をバタバタと振った。
「あれは生理現象だ。それ以外にはなんにもねーな!」
「そう…なのか?…だが、身を滅ぼす恋なんだろう?」
「だから相手に不用意に触れたり、流されちまうとアウトなんだよ」
兄がいうには発情期限定でその相手をものすごく欲するのだが、それは気の迷いなのだそうだ。自分の意志とは無関係に働く自然現象。発情期を終えれば、スッパリと忘れてしまう感情であるらしい。
「とにかく会うのも近づくのもダメだ。強烈なフェロモンが出てる状態だからな」
発情期に気づいたら極力他の国には合わない。
もし相手の国がわかったら、即、その相手からは距離を取り、発情期が去るまでは絶対に合わない。
一度相手がわかると、それは一生涯続く(らしい)ので、自分が発情したとわかると絶対にあってはならない。
どんなに強い欲求が沸き上がっても絶対に我慢する。
「これが鉄則だぜ」
力強く言った後、兄は疲れたようにため息をついた。

 *

「いいからヴェスト、お前もしばらくは在宅勤務に切り替えておとなしくしとけ」
いい子だから。
まるで子どもだった頃のように言われて頭をなでられたかと思うと、彼は上司に連絡を取りはじめ、そして俺は自分の部屋に押し込められてしまった。
国に発情期。
それについてはやはり半信半疑であるが、兄がそんなくだらない嘘(自分の利益にならない、彼自身が楽しくもないような嘘)をつく理由はないし、身体がやたらと熱いのは事実なのだ。
発情期は一ヶ月ほど(相手と交接しなければ?)なので、長いといえば長いがネットワークの発達した今日。自宅で済む仕事も多いので問題はないだろう。
というか、別に出たところで他の国に会うことなど滅多にないとは思うのだが…兄の口調からして発情期にその相手に出くわすということはとんでも無く大変な事であるらしいので、おとなしく聞いておこうと思う。
「それにしてもあついな…」
これから出かけるつもりで着ていたスーツを脱ぎハンガーにかけると、クーラーを入れて設定温度をいつもより2度ほど低くした。
相変わらず身体はやけに熱っぽいし、軽い運動をしたあとのように鼓動が早く少し頭がぼうっとする。
特に性的な興奮を覚えているわけでもないのだが、それに近い特徴を示している…ような気がしないでもない。
俺はため息をつくと、とりあえず今朝までに届いているメールの処理をはじめるためにパソコンの前についた。

っというか…その前に、本当に俺は発情期とやらを迎えているのだろうか?

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