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お前は孤高の者

マニクロ
※注意!
堕ちた人修羅(玲治)とおじいちゃんになったライドウの邂逅。
需要はゼロだと思えど、書きたいのでかきます。
妻帯にしようかとおもったけれど通いのお手伝いさんがいる設定。

冬。
身を切るような冷たい空気。
音もなく降り積もる雪。
白くなった庭には真っ赤な椿がちらほらと咲いているのが見える。

縁側で瞑想をするようにじっと目を瞑り座っていたライドウは、ふと空気が動いた気配にそっと目をあけた。
といっても、誰かが近くにいたわけではない。
はらはらと舞い落ちる雪。
ぼそりと音を立てて庭木の上に積もった雪が落ちる。
気のせいだったか…。
ライドウはまた目を閉じようとしたが…
その瞬間、ふとまた空気が動いた。
これは勘違いではない…。
ライドウはその身に緊張を走らせると、横にしていた刀を握った。
そして厳しい目で辺りをもう一度見渡し…ギシッという雪を踏む微かな音にそちらを見たライドウは、誰もいないはずである場所の雪が足で踏んだようにへこんでいるのを見つけた。
ライドウは流れるような動作で引き寄せた刀を持ち上げ、右手を添えぎゅっと握り締める。
恐ろしいほどの緊迫感…。

「誰か」

凛と通る誰何の声。
踏みしめられた雪の上に立つそれは動かない。
だが、かすかに驚いたような気配が伝わってきた。
ライドウはその気配に顎を引いた。
ライドウが現役を離れて久しいとはいえ…この程度の気配を読み取って驚きを表されるとは随分と甘く見られたものである。
確かにライドウに最盛期の力はすでにない…。
しかしだからといって一般人以下程度にまで力が落ちたと思われるのは心外だ。
反応を返さない相手に焦れ、ライドウは一気に刀を抜き、開いた左を胸の内にある管へと伸ばした。
それは全盛期の頃の半分にまで数を減らしていたが、それでも契約を交わしている悪魔の質は変わっては居ない。
いや、寧ろ長年連れ添ってきた悪魔。
現役で帝都を駆けずり回っている“葛葉”のもつ悪魔よりよっぽど信頼がおける分…強い。
まず負けないといっても言い過ぎではないはずだ。

「出てこい」

簡単にこの生命くれてやるものか。
そう決意を込めて言えば、それは戸惑ったような気配の後…

「ライドウ」

声を発した。

その声を耳にした瞬間に、ライドウの体は硬直した。
ライドウと呼んだ声は、久しく聞いていなかったが…確かにどこかで耳にした声だった。
まさか…と、息を飲むライドウに、
「もう忘れてしまった?」
続けられた言葉。
その途端…まぶたの裏をよぎったのは…
「………玲治…なのか………?」
まだがむしゃらに力のみを求めていた頃に出会った…同じ年頃の青年の姿。
ライドウの居る世界とは別の世界、別の時代の東京で出会った青年…。
人でありながら…悪魔に落ちた…
「そう」
玲治であると影が認めた途端…彼の気配が質量を増し…やがて彼はゆっくりとその姿を表した。
あの頃と全く変わっていない成長途上を思わせる細くしなやかな体。
上半身には何もまとってはおらず、下には黒いハーフパンツを履いている。
さらされた肌には黒い呪術的な文様が走っており、それを青白い帯が這っている。
とうとう世界を選ぶことの出来なかった彼の目の色は金色。
その瞳を細めて彼は微笑んだ。
「どうして…」
「会いたかったから…かな」
彼は嬉しそうに一歩踏み出し、そこで立ち止まる。
「結構色々大変で…実はあんまり動けないんだ」
彼は自分の足元を見て口元を歪めた。
「…そう…なのか」
「うん。でも…よかった、元気そうで」
「まぁ、見た目は随分と変わってしまったが…」
そう言って、ライドウは自分の老いを意識し、若いままの彼に老いた自分の姿を見せる事に少しの羞恥を感じた。
人であるならば当然その身に降り積もる老い。
それを恥ずかしむ必要などありはしない。むしろ誇るべきであるというのがライドウの持論であったが…しかし、こうして若いままの彼と、老いさらばえた自分を比べるのはどうにも恥ずかしかった。
抜いたままだった刀を鞘に戻し、その時に目に入った自分の細くなってしまった腕にライドウは小さく息をついた。
だがその姿を見て「でも…」と口を開いた玲治は、羨ましいとライドウに言った。
「羨ましい?」
「うん…」
具体的に何が…と玲治は口にしなかったが、その悲しげな表情から彼が本当にライドウを羨んでいるということがわかる。
「悪魔なんてなるもんじゃないよ」
それは愚痴か、それとも吐露か。
ライドウが何も返せずにいると、彼は苦笑して今のは聞かなかったことにしてほしいというように首を横に振った。
「まいったな」
「何が?」
「会ったら…会えたら色々と話そうと思ってたんだ。あの頃のこととか、こちらに戻ってからのライドウのこととか…ゴウトのこととか…いろいろ…だけど…困った。なんにも出てこない」
「…そうか」
それはライドウも同じ気持ちだった。
二度と会えないだろうと思っていながら、しかしもし会えたなら…と長い間に何度考えたかわからない。
そしてその度に、あの時のことを聞いてみたい、あの時の会話について話したい、あの時の決断について…などと考えていたのだが…いざとなると何も出ては来ない。何もいうことができない。
ただ二人の間に横たわっているもの。
それが全てなのだと気づく。
「でも、よかった、元気そうで」
同じ言葉を言う玲治にライドウは苦笑し「玲治も」と答えた。
「俺?うん。俺は元気だよ。随分悪魔らしくなってると思うけど?」
「あまり変わっていないように見えるが…」
「そうかな?これでも俺、“混沌王”としてかなりの尊敬あつめてるんだから」
「へぇ。それはすごい」
「あはは、すごい棒読み」
あの頃のようにぽんぽんと会話を交わせることに、ライドウは安堵とともにある種の感動を覚えた。
「…でも、本当は少し待ってたんだ」
「待ってた?何を?」
「ライドウが俺を呼んでくれないかって…」
呼び出してはくれないかって…。
「それは…」
「あ、いいんだ。ライドウが絶対に俺を呼んではくれないってことはわかってたし…俺が勝手に期待してただけだし…」
そう悪魔になった玲治を呼ぼうかと思ったことは実は何度かあった。
何も強い敵と出くわして危機を覚えた時ばかりではなく…ごく平和な時にもただ会いたいというだけで彼を呼んでしまいたいと何度思った事か…。
だがそれは葛葉ライドウとして許すことは出来なかった。
それでも…
「すまなかった」
雪の中ポツリと立つ玲治がとても切なくて、ライドウは謝罪の言葉を口にした。
「謝る必要はないって。それにほら…俺の方からこうやってきちゃったし…」
「そういえば…」
「あ、大丈夫だよ。ちゃんと影響が出ない範囲に力は抑えてるし…っていうか、そうしないと来れなかったんだけど…」
「そうなのか…」
「うん…っていうか、さっきから気になってたんだけど、ライドウ寒くないの?その格好」
玲治は薄い着流し姿のライドウを見て言い、それから雪の落ちてくる空を見上げた。
「雪が降ってるし、寒いでしょう?」
「いや、そうでもないが」
「うそ。こんなに雪が積もってて寒くないわけ無いよ。ねぇ今何月なの?」
「今は如月か」
「如月って2月?それってすっごく寒いじゃん。俺にはイマイチわかんないけど…」
「そんなことは…」
否定の言葉をライドウが口にしようとしたとき、玲治はふと右手を空に掲げたかと思うと…次の瞬間、どこからともなく現れた赤い着物が彼の手に落ちた。
それは庭で雪に埋もれている椿よりももっともっと高貴な赤を持つ着物で、梅の刺繍がごく控えめに入っているものだった。
見るからに高そうなそれにライドウは目を見張る。
「これ、いいでしょう」
「あぁ…すばらしい品のようだが…」
「アメノウズメにねだったんだ」
「アメノウズメに?」
「そう…この赤を出すのにはとっても苦労したっていってたよ」
玲治は愛おしげに着物を撫で、それからふっと持ち上げるようにすると…その着物は次の瞬間、ライドウの肩に落ちた。
丁寧に羽織らされたそれ。
ライドウはそれが背に触れた触れた瞬間に温かみを感じとった。
そして手を伸ばし触ったそれはなんとも上質な絹でできている。
「玲治…これは…」
ライドウが着物から目を上げようとした時、部屋の奥でカタリと音がした。
近所から手伝いに着ている娘が、使いから帰ってきたのだろう。
その瞬間…ライドウの意識は玲治から離れ、
「あ」
ハッと気づき玲治の方を見たときには、彼の姿はどこにもなかった。
「玲治…?」
先ほどまで踏みしめられていたはずの雪も、いつのまにかその痕がない。
そして気配すら…。
まるで彼は最初からいなかったかのように消え去った玲治。
先程までのあれは夢だったのだろうか…?
会いたいと願っていたライドウが自ら生み出した幻想…?
いや…
「今帰りました。…あら、葛葉さん。どうしたんですか?その粋な打掛は…?」
違う。
それが証拠がライドウ自身の肩にかけられている。
「まぁなんて素敵」
手伝いの娘はライドウの傍に膝をつき、うっとりとその着物を見つめた。
「もしかして奥様のですか?…まぁ、なんて素敵な赤でしょう…」
こんなに素晴らしい赤は見たことがありませんわ。
そう絶賛する彼女に、自分は妻を娶ったことはないと言おうかと思ったが、途中でライドウは億劫になって口を閉じた。

ろくに話せずにわかれたことが心残りでならなかった。
しかし…どこか心がスッと軽くなったような気もした。
ずっとずっと…心に引っかかっていた何か、心に気づかぬうちに降り積もっていた澱…
それが先ほどの少ない邂逅でスッと溶けている。
胸が軽くなっった。肩から力が抜けた。息苦しさが無くなった。
それと共に、何かが永遠にライドウの元から去っていった。
ライドウはその物悲しさにため息をつき、手伝いの娘に下がるように言うと、どっと老けこんだような気のする自分に体を見下ろし、白くなった庭を一度見つめそっと目を閉じた。

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