スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

これが限界

独←ロマ
頑張るロマ

その日、ドイツは自宅で仕事をしていた。
仕事の内容は先日、オランダに風力発電の視察に行った時の報告書の作成だ。
視察には昔からの知り合いであるオランダも参加しており、煙の出ていない煙管を咥えた彼はドイツを見て、「でこぅなりおって」と少々忌々しそうに言ったものの「よぉきたの」と歓迎してくれた。
視察の成果はまずまず。個人的にオランダから意見が聞けたことも意義が大きかった。
これならば上司の期待以上の報告書ができるはずだ。
ドイツはなめらかにパソコンのキーを打ち込んでいたが、それは卓上の電話が鳴ったことにより一旦中断されることになる。

ジリリリリン…ジリリリリン…

ドイツの卓上に置かれた電話は、今ではめったにお目にかかることの出来ない旧式の黒い電話だ。当然ディスプレイがなく、誰がかけてきたのかは受話器を取るまでわからない。
しかし親しい人間ならば、こちらの電話ではなく携帯電話か家の電話(仕事用の黒電話と自宅用の電話は番号が違うく)に電話してくるはずなので、おそらく仕事上の相手がかけてきたものだろう。
相手は上司についている秘書の内の一人か、それとも使っている部下の一人か…そんなふうに考えながらルートヴィヒは受話器を取った。
「はい。誰だ?」
名前を名乗らないのは安全上の問題に絡むからだ。手っ取り早く相手の名を問うと、相手は少しの間を開けて『俺』と小さく言った。
「俺?」
そんな詐欺を日本から聞いたことがあるぞ…とドイツは少し警戒し、「誰だ?」と、先程よりも少し低い声で誰何した。
すると、
『俺だ!コノヤロウ!』
と、名乗らないまでもとても分かりやすい言葉が返ってきて、ルートヴィヒは眉間の渓谷を少し浅くした。
「ロヴィーノか」
『やっとわかったのかよ、このジャガ野郎』
「お前が名乗らないからだろう」
責めるような言葉ではあるが、口調事態は優しい。
ルートヴィヒは少し椅子を引き、リラックスした姿勢を取った。
仕事中に無駄な電話は嫌うルートヴィヒだが、今日は仕事が順調であるせいか少し気持ちに余裕がある。
「それで、どうしたんだ?お前から電話をしてくるなんて珍しい」
『う、うるせぇなッ、別にいいだろう』
「ダメとは言っていないだろう。どうした?イタリアならこっちには来ていないぞ」
『んなことは知ってんだよ!!!』
いつものことながら…ロヴィーノはなんだってこんなに喧嘩腰なんだろう。
そんなに俺は怖いのか。
ルートヴィヒは不満に思いながら、それでも根気強く相手をする。
気難しいロヴィーノはこれ以上、何の用だ、何の用だと急かすときっとへそを上げてしまうだろう。
だから「元気そうでよかった」などと世間話を振り、向こうから要件を話すのをルートヴィヒは待つことにした。この半世紀ほどで彼は少しだけわかったロヴィーノの扱い方の一つだ。
『お前に心配されるようなことじゃねーよ!』
「あぁそうだな。…そういえばこの間イタリアが持ってきたトマトだがとても美味しかったぞ」
『なっ…あのやろう…勝手に持って行きやがったなッ!』
「なんだ…お前からと聞いていたんだが、違ったのか」
『違うに決まってるじゃねーか!ばかぁ!!』
「あー…その“ばかぁ”って言い方はやめてくれないか。イギリスを思い出して頭がいたくなる」
『ハッハッ、ざまあみやがれカッツォ!』
少し機嫌が持ち直したらしい。
「だが、本当に美味いトマトだった」
『はっ、あったりまえじゃねぇか、俺を誰だと思ってんだよ』
「あぁ、そうだな」
さて、そろそろかな…とルートヴィヒが間を置くと、案の定『それで…』とロヴィーノは話を切り出した。
『お前…夏はどうするんだよ』
「夏?夏とはどういう意味だ?」
『だ、だから…ほら、なんかあるだろ?!』
「夏にか?」
情報が少なすぎる。
そう思いながら、しかしそれを言えばまた機嫌を損ねるとルートヴィヒは頭を捻る。夏、夏、夏…。夏…?
「もしかしてバカンスのことを言っているのか?」
『おせーんだよ』
「それはすまない。それでバカンスがどうかしたのか?」
『ど…どうって…な、なんか言うことねぇのかよ』
「バカンスについてか?」
『他に何があるんだよ!チギーーー!』
「わ、わかったわかった。落ち着いてくれ」
ロヴィーノの大きな声に少しだけ受話器を耳から放し、ルートヴィヒはまた少し考える。
「あー…バカンスの日程ならまだ決まっていないが…」
『そーかよ』
「お前たちは日程が決まっているのか?」
『別に』
芳しくない返答。
どうやらこういうことではないらしい。
「あぁ、どこか行きたいところがあるのか?」
そう言うと、ロヴィーノが息を飲んだような気配が受話器越しに伝わってきた。
「ロヴィーノ?」
返事は帰ってこない。
だが、受話器の向こうで、『あ』とか『う』とか言葉に詰まっている小さな声が聞こえる。
いつもはドイツに遠慮なんてこれっぽっちもしたことのない男が言葉に詰まっているなんて…。
そう思うとなんだか可笑しくて、そして可愛く思えてルートヴィヒは思わずにやけそうになった口元を手で抑えた。
『べ、別に行きたいっていうか…』
「どこか行きたいところがあるなら行ってくれてかまわんぞ」
どうせいつものようにメンバーは日本とイタリア、そしてもしかしたら兄さんもというところか…と考えながらドイツが言うと、『ふ、二人でか?』とロヴィーノが言ったので彼は内心とても驚いた。
「え?あぁ…二人がいいならそれでもいいが……」
混乱しながらそう答えると、
『ほ、本当だな!今の言葉!絶対だからな!』
とロヴィーノが大きな声で怒鳴り、次の瞬間ブツンと通話が切れてしまった。

「なんだ…?今のは?」

「それに…二人で…?」

俺とロヴィーノがふたりだけでバカンス??
咄嗟にそれでも構わないと口にしてしまったが…一体ロヴィーノは一体どういうつもりで言ったのだろうか…?
夏は日本、イタリアたちと過ごすのが恒例になっていたのに…。
もちろんロヴィーノがそれを知らぬわけはないというのに…。
イタリアも日本も誘わずに、俺とロヴィーノが二人だけで…?
しかも俺を嫌っているはずのロヴィーノから誘ってくれた…?
真意が測れないドイツは唖然と通話のキレた受話器を見つていたが、
「罠…?嫌がらせ…?いや、それはさすがに穿ち過ぎか…?」
やがてそれを電話機の上に戻すと、真剣にロヴィーノの心を探ろうと考え始めた。

 *

一方。
はぁはぁと大きく息をつきながら電話を切ったロヴィーノは、「よし」と小さく拳を握ったところで、
「よかったねぇ、兄ちゃん」
と、どこかへ出かけていたはずの弟に後ろから声を掛けられ、文字通り飛び上がっていた。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。