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028 悔しいけれど

にょセシルネタ

竜騎士のたまり場にやってきたカインは、そこで新人の一人がズドーーンと重い空気を背負いうなだれているのを見て目を瞬いた。
彼の周りだけ空気がよどみ、色彩が薄い。
カインは、壁際で一人黙々と竜の骨に彫り物を施している副官のサッズの方へと足を向け「サッズ、あれは一体なんだ?」と、声をかけた。
サッズは顔を上げカインを見、それから重い空気を背負った一人を興味なさ気に見ると「あぁ」と言った。
「あれです。失恋」
「失恋?…そりゃ気の毒だな」
もっと深刻な事態を想定していたカインは肩透かしを食らった気分で、近くの席に座る…と、話好きな団員の一人がカインとサッズの会話を聞きつけて近くにやってきた。
「相手は誰だと思います?団長」
「誰といわれてもな…」
「団長も知っている人ですよ」
といっても興味が出るわけではない。
だがニコニコと楽しそうな顔を見ていると、付き合わないのも無粋な気がしてカインは何人か名前を上げた。
どれも貴族の子女で美しいと評判の娘たちで、いずれも先ごろ開催された夜会の招待客。警備を任された新人たちにも知り合う機会がなかったとも言えない女性達だ。
彼女たちはカインと親しいというわけではないが、顔を見れば挨拶する程度の知り合いではあるが…違うらしい。
「もっと身近な人ですよ」
じれったそうな団員を見て、救護班か食堂で働いている女性かとも思ったが…
「まさか…ローザか?」
ふと思いついて、カインが幼なじみの名前を出すと、話好きな団員の目は一層輝いた。
「ビンゴ!」
「はぁ…なるほどな。あいつもローザの信者だったってわけか…」
カインの幼なじみであるローザは、ファレル家の一人娘であり、また大変に美しい。
彼女に恋をする男は星の数、そしてまた、彼女に袖にされた男も星の数ともっぱらの噂だ。
もちろん竜騎士のメンバーにも少なからず憧れる男がいる。
「ま、俺もそうですけどね」
「胸を張るな、胸を」
うざったそうにカインは手を振る。
「けど、あの落ち込みよう…よっぽどこっぴどくふられたのか?」
彼女はいつも優しく…男達のプライドを傷つけないように上手に断っているはずだが…と首を傾げるカインに、「それがですね」と男が身を乗り出し、カインはそれを手で「近い」と押しのけた。
それに不満そうに口を尖らせた男は、それでもずずっと近づいて声をひそめて「実はですね」と言った。
「別にあいつ、ローザさんにコクったわけじゃないんですよ」
「そう…なのか?」
いいながらカインはもう一度落ち込んでいる新人の方を見た。
その新人は相変わらずドーンと重い空気を背負っており、同僚たちに敬遠されているように見える。
誰か慰めてやれば…と思うのだが、確かに生半可な気持ちでは肩を叩けるような雰囲気でもない。
「そうなんですよ。なのに、なんであんなになっちゃったと思います?」
「あのなぁ…もう俺はクイズはウンザリだぞ」
「ちぇ、付き合いがわるいですよ、団長」
「で、なんなんだ」
カインからすれば話を聞いてやっているだけでもありがたいと思ってほしいところだ。
「もぅ…まぁいいですけど。…あいつですね、ついさっき、ローザ嬢が若い男と歩いているのをみちゃったんですって。そりゃもう、ものすごく仲睦まじい様子で」
頬をバラ色に染めて、恋する乙女の表情で隣にたつ男に笑いながら話しかけていたのだという。
「相手の男もそりゃまたきれいなべっぴんさんだったらしくて…」
へぇ。ローザの奴、いつの間にそんな男を…と、素直に驚きながら聞いていたカインだったが…
「セシル団長ですよ」
後ろのほうからボソッとつぶやかれたサッズの言葉に、「あぁ…なんだ」と納得した。
そしてネタを明かされた男は「もう!なんでいうんですか~~~!」と大声をあげて悔しがった。
セシルとはローザと同じくカインの幼なじみであり親友である。
先ほど“相手の男”とセシルのことを彼は言ったが、セシルは男ではなく女。
軍に所属する彼女は常日頃男装をしているので、美青年と見間違う人間も多いが、立派な女性。
ローザと彼女が仲睦まじく歩いていたとしても、誤解されるようなことは一切ない…はずだ。
少なくともカインはそう思っている。
「もぅだめですよ、ネタバレしちゃぁ…」
恨めし気に言う男にサッズはフンと鼻を鳴らし手元に視線を戻した。
そんなやり取りを横目にカインはこの世の終わり…いや、この世の世界を全て背負い込んだように落ち込む新人を見て「気の毒に…」とつぶやく。
「確かにセシルは“いい男”だからな」
「ですよね!もぉ俺憧れちゃいますよ!!!」
「さっきはローザのファンだといってなかったか?」
「はい!でもセシルさんも好きです!」
鼻息も荒く肯定するうなづく男が暑苦しい。
「だけどローザさんとセシルさんはほんっとお似合いなんで!二人が恋人とかだったら悔しいけど、俺あきらめようかなぁ~なんて!」
「いや…ないだろう」
女どうしだぞ?
「ありますよ!カイン団長もうかうかしてると、とられちゃいますよ!!」
訳知りに言う男にカイン少しムッとしながら
「…ちなみに、誰をだ?」
と、問うと、その団員はカインの機嫌を損ねた事に気づいたのか、顔をひきつらせ「あー…そろそろ見張りの交代なんで!」と逃げ出してしまった。
「まったく…あいつは…」
そんなことをつぶやきつつ、手に持っていた書類にようやく目を通し始める。
そんなカインをちらっと見つめ、「確かに頑張ったほうがいいかもしれませんよー…」ボソッと呟いた副官に、カインは手に持っていたペンをバキリと折った。

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