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2-1=0(比翼連理) 07

少しでかなったよ

「その弓はまだ貴方には無理ですよ」

固い弦をぐぐっと引こうとした瞬間、師範役のちょび髭教師が俺からそ弓を取り上げ、
「ギルベルト様は、こっちでしょう」
そう行って俺に子供用の弓を持たせた。
そのゆみは柔らかな木で作られていて、弦の張りも甘いものだ。…バカにしやがって!
「何でだよ!俺はそっちのがいい!」
そう言って手を伸ばすが、教師は弓を頭の上に高く持ち上げてしまった。
ちくしょう、くやしい。
そんな風にされると、俺はまだ小さいから跳ねても手が届かない。
「返せ!かぁえぇせぇ!この野郎!」
「ダメですよ。大体、これドイツ様の弓じゃないですか!勝手に持ち出して叱られても知りませんよ!」
俺はその言葉にギクリとした。
「け、けど、五つもあったし一つくらい…」
「さて、それはどうでしょうね?」
ちくしょう…
もう一度弓をねだるか、それとも片付けるべきかをしばらく考えて「わかったよ」俺は、片付ける事にした。
親父は物を大切にするし…それに物があるべき場所にきちんと仕舞われていないと気が済まない。だから、屋敷はいつも使用人たちによって綺麗ピカピカに磨き上げられていて…と、その時
「あ」
小鳥のようにいい俺の耳は、屋敷の表の方から聞こえてくる馬の蹄の音を捉えた。
カッカッカッカッ…という弾むような蹄…。
「どうしましたか?」
あの音は間違いなく、親父の青毛の馬だ!
俺は確信を持って走り出した。
後ろから教師が何か言っていたが、もちろん無視だ。
だって親父が此処に帰ってくるのは二ヶ月ぶりだ!
弓の授業どころじゃない!
でもなんで?!今日帰ってくるなんて聞いてないぞ。
…さてはあいつら俺に秘密にしてやがったな!
「親父!」
屋敷をくるりと周り、従者どもと馬上で話している親父を見つけた途端に俺は大きな声を上げた。
すると豪奢な金の髪を後ろに撫で付けた親父が、声に気づいてこちらを見た。青い透き通った目が俺を映しているのが、遠くからでもはっきりと分かる。
それが嬉しくて「親父ぃ!」ってもう一回呼ぶと、彼は馬を降り従者どもと別れてこっちにやってきた。

「親父、おかえり!」
足にぎゅっと抱きつくと、親父は俺を一度引き離し、腰を折って俺を抱き締めた。
「ただいまギルベルト」
ちょっと焦げ臭さのまじった親父の匂い。
たくましい胸に俺は頭をぐりぐりと押し付けた。
親父はそんな俺を力強く抱き上げ、俺の視界は一気に高くなった。
もう大きくなったんだし、本当は抱っこなんてみっともないし嫌なんだけど…でも二ヶ月ぶりだし…恥ずかしいけど凄く嬉しい。
「親父、今回は長く一緒にいれるのか?」
「そうだな…ゆっくりはできないが…」
「……そっか…」
「あぁ、だが、少なくとも一週間はいるつもりだ」
一気にテンションを落とした俺に親父はとりなすように言ったけど、ゆっくりできないってことは此処にいても仕事がいっぱいって事だ。
多分、朝食が一緒に食べれるくらいがせいぜいって感じだろう。
もちろんそれでも、全然会えないっていうよりはマシなんだけど…でも…。
「そんな顔をするな。なんとか時間をつくるから…」
「うん…」
困ったような親父の顔に胸がちくちくする。
親父が帰ってきて嬉しいはずなのに…変だな。なんで親父を困らせてるんだろう。
二人して何となくしょんぼりとしていると、
「ドイツ様、おかえりなさいませ」
先ほどの教師が弓を持ってやってきた。
うえ、邪魔するなよッ!今さらまた授業…なんて無粋な事いうんじゃないだろうな?
今日くらいはゆっくり出来はずなんだから、絶対に嫌だぞ。
俺は授業なんてごめんだと親父の首にぎゅっと抱きついた。
すると教師はコホンとわざとらしい咳をする。
「あぁ…悪いな、授業の邪魔をしたか」
「いえいえ」
「弓の授業か…ん?その弓は…」
うわ、あの野郎…!親父の弓まで持ってきやがったんだ!
これじゃ、俺が勝手に持ち出したってバレバレじゃねぇかッ!
親父の前ではいい子だっていうのに…!これじゃ幻滅されちまう!親父にだけは嫌われたくねぇのに…ッ!
それなのに…!俺が体をかたくしているっていうのに、教師は平然と「はい、ドイツ様の弓です」なんて言いやがった。
くっそ教師め…覚えてろよ、後でスネをめいっぱい蹴り飛ばしてやるからな!
ギリギリと奥歯を噛んでそんなことを思っていると、
「ギルベルト様が是非、ドイツ様に弓を教わりたいと仰せられておりましたのでお持ちいたしました」
教師はそんなことを言った。
「えっ?」
驚いて思わず親父から離れ教師の方を見ると…彼はニヤリというように俺の方を見て笑った。
な、なんだよばらすんじゃねぇのかよ…それに…余計な言いやがって…。
でも……。
チラリと親父の方を見ると、彼もこっちを見ていた。
青と目があって、思わずドキッとしてしまう。
「するか?」
「え?あ…、何…をだ?」
「だから弓だ。俺と練習するか?」
俺は思わずウッと言葉をつまらせた。
だって…したい。
本当は疲れてるんだろうし、ゆっくり休みたいだろうなっては思うけど…でも、弓は今まで教わったことねぇし…剣の稽古だってずいぶん前にやったきりだし…
もじもじとしていると、「はっきりと言え」と少し硬い口調で言われて、俺は思わず「やりたい!」と言ってしまった。
言ってしまってから…なんだかちょっと気まずくなって…そっと親父を伺うと、チュッと額にキスが落ちてきた。
「うぁっ」
パチンと手を額に当てると、おかしそうに親父が笑ってた。
「さて、ではやるか。言っておくが俺の指導は厳しいぞ」
「えっ、あ、そんなの…平気だ!」
「そうか、ならばビシバシいくとしよう」
「お、おう、任せとけ!ケセセ」
少しだけひきつって胸を張った俺の頭を親父は優しく撫で、「では楽しみにしておこう」と笑った。

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