スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

魂は貴方のもの

伊藤に近づけと命令したのは誰でもない俺だ。
それは新選組にの今後にとって必要不可欠な事であり、それについては一切後悔はしていない。
だが…
人気のない廊下で、頬を伊藤の掌に預け、婀娜(あだ)っぽく微笑んで見せる斎藤を見たとき、腹の中でカッと火がついたような熱さを感じた。

 *

「まったく、可哀想に。新人いびりもほどほどにしてくださいよ」

総司に声をかけられ、井戸端で顔を洗っていた俺は不機嫌に振り返った。
ギロリと睨むと「こわーい」と総司はおどけたように言った。
「うるっせぇよ」
「ははは、はじめちゃんにふられたからって人に当たるのは大人気なくないですかぁ?」
「あぁん?」
「ほらほら、そんな口きいちゃって」
「てめぇ…」
総司にもう一度文句を言ってやろうと思った俺だが…此処で、俺は総司が俺以上に怒っているらしい事に気づいた。
「総司?」
普段の彼そのままに微笑んでいるようだが…目が全く笑っていない。
穏やかな春を思わせる彼の目は、今凍りつき…しかしその癖に、怒りの炎をちろちろと燃やしている。
「なんだったら…僕がお相手しましょうか?」
ちょうど体が鈍ってたんです。
そんなことをうすら寒い笑顔で言う総司に、土方の頭がだんだんと冷えてきた。
「…ばか野郎。誰がおまえなんか」
「どうしてです?土方さん、誰でもいいからぶちのめしたい…って思ってたんでしょう?」
誰でもいい?
たしかにそう思っていたが、それは、伊藤に手を出せない代償だ。
「おかげで頭が冷えたんでね」
そう言ってやると、彼はつまらなそうな顔をした。
「どうしてですか。せっかく僕が相手をしてあげようっていうのに」
「お断りだよ」
そう言って乱れた髪を手で整えていると、総司は何か言いたそうな顔をした。
言おうか…それともやめておこうか…というように口を何度か開閉させる。
その間に俺はあたりを見まわし、そして総司が口を開こうとしたとたん、彼の目の前に指を一本立ててみせた。
「……ひじ…かたさん?」
戸惑うような総司の声に俺は少し考え、しかし今はまだ何もかもを話すわけにはいかないと考える。
斎藤と総司は近い…。
嘘が上手いとは言えない総司が知ってしまえば…
そして、目端の利く伊藤は…。
「余計なことは気にするな。総司」
「よ、余計なことって…」
「“あいつ”はたしかにイラつくがなぁ…志自体はまちがっちゃいねぇ…そうだろう?」
われながら心にも無いことをよく言う…。
「あなた…本気でいってるんですか?」
「あぁ」
そう言いながら俺は、目ではそうではないと訴えていたつもりだが…残念ながら総司はそれを読み取ってはくれなかった。
…まぁ、そのほうがいいともいえるが。
「藤堂あたりはずいぶんと心酔しちまってるみたいだしなぁ」
「……」
呆れ、それから怒り。
向けられる感情を俺はことさら無視し、元結で髪を結びあげた。
「あぁ…だからってお前は“あいつ”に走ってくれるなよ。それだけは困る」
そうして笑って見せると、総司の目に失望と怒りが湧き…総司は俺には何も言わずに立ち去った。
…きっと近藤さんのところに行くのだろう。
忙しいのにわりぃなぁ…とは思うが、どうしようもなかった。
俺はため息をつき、額に手を置いた。
「…クソッ…」
改めて怒りがこみ上げる。
だが…そう、俺は怒る権利すらないのかもしれない。
俺は濡れた手ぬぐいを握り締め、まっすぐに顔を上げた。
今は…今だけは辛抱だ。

コメントの投稿

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。