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叶わない恋を知る

独ロマ 悲恋
読み返さない。

濃い目に入れた茶をゆっくりと一口飲み下し、熱くなった息をため息として押し出す。
そして間もなくなった玄関のチャイムの音に「よいしょ」とじじくさい掛け声をかけて立ち上がり玄関へと向かった。

日本の家を訪れたのは彼の盟友であるドイツとロマーノだ。
「いらっしゃいませ」
笑顔で頭を下げる日本に対し、二人は厳しい顔で挨拶を返す。
日本との話が厳しいものになることを予想しているのだろう。久しぶりの再会にも笑顔を見せない二人の態度を日本は不遜だ…とは思わず、むしろ正直で好ましいと思った。
「本当はいつもの居間にと思ったのですが、それでは足がいたくなりますので…」
そう断って日本は洋風に設えられた億の部屋に彼らを案内した。
日本はコーヒーと菓子を用意すると、並んで座った二人の対面の席へと腰を下ろす。
そうして近況報告から始めようとしたのだが、
「日本、悪いが単刀直入に言ってもらえないか」
と、場を穏やかにさせるという気遣いはまどろっこしいとばかりにドイツに断られてしまった。
ちらりとロマーノの方を見ると、こちらも同じ気持ちらしく硬い表情をしながらも早く話を始めたいといった雰囲気である。
日本はそっと目を伏せ「それでは」と口を開いた。
「どうやらお二方には私の言いたいことがわかっておられるようですが……、お二方には別れていただきたいのです」
一気に日本が言い切ると、二人は覚悟はしていただろうにひどく痛い顔をした。
「散々お二人のことを応援しておりましたのに、このようなことを言わなければならないのは心苦しいのですが…」
「…あぁ」
ドイツは泣きそうになっているロマーノの背中を撫でてやりながら頷いた。
「こっちこそ…お前には損な役回りをさせてしまって…」
「いえ、これは爺の役割ですから…」
日本は悲しげとも寂しげともとれるような不思議な微笑みを浮かべた。
しんと静まり返った室内、そこに小さな嗚咽が響く。
それは両手を足の上でぎゅっと握りしめ、はらはらと涙を流すロマーノから漏れたものだ。
「…う、ひっく……あ…」
「ロマーノ」
ドイツが背中を撫でると、ロマーノは彼の胸に抱きつくようにして涙を流した。
「な、なんでだよ…。や、やだ…やだ」
「ロマーノ君…」
「どう…して、他のや、やつはいいのに…な、んで」
たしかに…中にはもう100年以上の長い間、愛を育んでいる国同士もある。
だが二人には許されない事だった。それは彼自身、二人が近づくことで出た弊害を身近に見て知っているはずだった。
しかし、それを知っている事と理解するということはまた別であり、ロマーノはそれを理解することが出来ない…いや理解することを拒否している。
いやだいやだとだだをこねるロマーノを二ドイツは抱き締めてやり、そして日本は二人を優しく見守った。
「ロマーノ君、しっていますよね。今、ヴェネチアーノ君とプロイセンさんがどんな状況におかれているか。…そう、高熱を発してヴェネチアーノ君はベッドから起きれない。そしてプロイセンさんは失明してしまい言葉もおぼつかなくなってしまった。しっていますよね」
日本の言葉にロマーノはわからないというようにドイツに頭を擦り付けるように首を横に振った。
「…ロマーノ君にはヴェネチアーノ君、そしてドイツさんにはプロイセンさん…。あまりにも二人が近すぎる存在だったのがいけなかったのでしょうか…」
日本は溜息をつくようにそっとつぶやいた。
「いいえ、いけないことなど無いですよね。だって、ふたりともご兄弟をとても大切にしていらしたのに」
「……皮肉としかいいようがないだろうな」
ドイツは薄い青の瞳に悲しみをたたえて言った。
「兄さんの事は家族としてとても愛しているし大切だ。兄さんは俺を半身だと言ってくれるし、俺もそうだと頷く……」
「だから俺は邪魔なのか?」
「そうじゃない。だが、理屈では割り切れない場所で、俺と兄さん、そしてヴェネチアーノとお前の間に入ってくるものを異物と判断しているんだろうな」
何かが、相手以外のパートナーを傍に置くことを拒絶している。
国である彼らには、彼ら自身ですらよくわかっていない制約が数多く存在している。
二人はそれに触れてしまったのだ。
「お前だってヴェネチアーノのことは好きだろう?」
「ち、ちが、あんなやつ…」
「意地を張るな。“わかって”いるだろう?あいつは間違いなくお前の半身なんだ。俺達は…近づきすぎちゃいけなかったんだ」
ドイツは兄、ロマーノは弟…二人の間よりも近い人物は…認められない。
「そんなの…どうして…!」
まるでロミオとジュリエット。
いや、それよりひどいかもしれない。
誰もの理解を得ることが出来たとしても、二人は決して結ばれない。
結ばれてしまえば、きっと誰かが死ぬ。少なくとも二人、もしかしたら四人。そしてそれ以上。
互いの事を大切に思うならば…
「お前…俺と別れたいと思ってるのか?だから…」
冷静なドイツにショックをうけたような顔をするロマーノ。
ドイツは慌ててそんな事があるわけがないと否定する。
「だが…別れるしかないじゃないか」
ドイツの揺れた声にロマーノはハッと目を見開いた。
「兄さんとヴェネチアーノが倒れたのは、警告だということだろう…」
同意を求めるようにドイツが日本を見ると、彼はゆっくりとうなづいた。
「おそらくそういうことでしょう。それにプロイセンさんのほうが症状が重いのは、彼のほうがドイツさんとのつながりが大きい…ということも表していると思われます」
「俺達が別れないと言えばどうなると思う?」
「……ヴェネチアーノ君も近いうちに、プロイセンさんと同じ状態に…そして…」
その先は口にしたくないというように日本は口を閉ざした。
しかし言わずとも二人には十分に伝わった。
この先二人が悪化していけばどうなるか、それでもドイツとロマーノが愛を貫くとすれば…そうすれば…。
「私は…失いたくないんです」
悲しいほほえみを浮かべていう日本に、ドイツも頷いた。
「俺もだ。誰も失いたくはない」
「俺は…俺は……俺だって」
ぐずるロマーノだが、本当は分かっているのだろう。
ただ理解したくないだけで、認めたくないだけで…分かっているのだろう。
普段人前では決して甘えることのないロマーノが、今は日本の前でドイツにすがりついて泣いている。
「何も永遠の別れだということではない…話だってできるし、食事に行くことだって…」
「でも、それでももう二人ではあえねぇんだろ?す、すきだって言ってもだめなんだ…」
「ロマーノ…」
必死になだめようとするドイツと、そんなドイツを必要以上になじるロマーノ。
日本はそっと目を伏せると、静かに席を立ち部屋を出た。
これ以上はもう二人で話し合うしかない。

結論は決まっているとしても。

日本は縁側へと腰をおろし正座すると、すかさず膝に飛び乗ってきた白いむく犬を撫でてやりながらほぅと息をついた。
「本当に…残酷なことですね」
彼は苦しそうな顔でつぶやく。
「あんなに幸せそうでしたのに…。あんなに祝福されていましたのに…」
それなのに…二人の愛は誰も幸福にしない。
「悲しい…辛いことですね。でも、もしかしたら…」
もしかしたら…時代が移り変わり、政治的な何かが両国の間で交わされたりしたならば…
「状況は変わる…かもしれませんね」
国としての彼らは本当に不安定だ。
そして自分の意思というものではどうにもならない事がたくさんある。
かつて国としての命は尽きながらドイツが東西に引き裂かれることを前提として残されたプロイセン、一地方でありながら“国”の資質をもち生まれてきた数々の国達、間違っていながら進むことしか出来なかったドイツ…例を上げればキリがない。
大いなる意志としか言えぬもの。
時代の道しるべ…。
今は敵意を丸出しに牙を向いている“ソレ”も、時代の移り変わりと共にそれを変えてくる可能性は充分にある。
今は駄目だといって、未来永劫許されないとは限らない。
もちろん、未来は変わる…とも言い切れないのだが。
「悲しいことです。でも…私は失いたくはありませんから…」
誰も失いたくはない。
ドイツもロマーノもヴェネチアーノもプロイセンも。
そして彼らの数多くの同胞たちも。
全てうまくいくように。
そう願うことは強欲だろうか?
日本は自分に問い、自分でそれを否定した。
いや、そんなことは無いはずだ。
きっと、きっと…。

ぼんやりと犬を撫でていると、奥のほうで扉が開く音がした。
日本は重い息をつき、ゆっくりと今は絶望に沈む二人を振り返る。

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