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2-1=0(比翼連理) 02

赤ん坊

ギルベルトと名付けられた玉のように可愛い赤ん坊は、ドイツに連れてこられた当初こそ大人しい子であったが、屋敷に慣れると途端に暴君へと変わった。
というのもギルベルトはとにかく手のかかる赤ん坊だったのだ。
とにかく泣くし、寝ないし、抱かれるのを嫌がるし、だからといって放って置かれるのも嫌がるし…。
特に男は嫌いらしく顔を見せるだけで泣き出す。
女だって少しでも気に入らない事が起こると二度と受け入れてもらえなくなる。
一、二歳の子(使用人の子)を会わせてみると、反応がよかったのだがしばらくすると小さな手でおもちゃのブロックを持ち上げ、子供の頭を殴りつけて泣かせた。
ようやく寝たかと思ってもほんの少しの物音で目を覚まし、怪獣のような大きな声で泣きわめく。
ギルベルトが来てからというもの屋敷は彼を中心に回っており、胃を痛めるものや夜に眠れないというような症状を訴える者が続出した。

…だが

そのことを、屋敷の主であるドイツは全く知らなかった。
それどころかギルベルトの事をとても大人しい赤ん坊で手がかからないとすら思っていた。
それというのも、どういうわけかギルベルトはドイツが屋敷にいると人が変わったように物わかりのいい赤ん坊に変わるのだ。
いや、屋敷というよりドイツが屋敷の敷地に入ったその途端だ。その途端、それまで火がついたように泣いていたギルベルトはピタリと泣くのを止め、それどころか機嫌よさそうに手足を動かしてきゃっきゃっと笑いすらする。
ドイツがいないときにはハンストしてでも泣き続けていたギルベルトがだ。
屋敷に勤めるものは、そんな彼を見てほっとするやら情けなくなるやら。
だが、それでもドイツに笑顔で抱かれているギルベルトと、普段は気難しい顔をしている主人がギルベルト相手に微笑んでいたりするのを見ると、彼ら“さて、これからも頑張ろう”という元気が湧いてくるのだった。

 ※

抱き上げたギルベルトは、前に抱いたときよりも少し重くなったようにドイツには感じられた。
首にまいたスカーフを小さな手でいじるギルベルトの唇はツンと尖っており、それが愛らしくてドイツは思わず目を細めた。
「お前を見ると癒される」
ドイツ言うと、言葉の意味がわかるのか、ギルベルトは養い親であり兄であるドイツを見てにんまりと…心なしか胸を張って微笑んだ。
それはとてもとても麗しい光景だった。

神の愛を一心に受けたかのようにギルベルトは愛らしい、しかし…少し特異だった。
輝く白金に、紅玉のような赤い目。
その姿は書物の中で詠われる悪魔の姿に酷似しており、最初の頃はひどく使用人たちを戸惑わせた。
それはドイツも同じだったが…ギルベルトは特別なのだと思うと、その異質さも誇らしくなった。
特別。
そう、彼は大陸を制覇するべく生まれた覇王なのだ。
誰よりも猛々しく、勇気があり、そして強き王。
誰もを従わせ、誰もを支配する絶対の王。

「ギルベルト、お前は俺の宝だ。命だ」

ルートヴィヒは語りかける。

これから全てをお前に与えよう。
自分の持てる全てを。

ギルベルトを見ていると、ドイツの胸からは滾々と愛おしいと思う気持ちが沸き上がってくる。
それは国という存在が“下の兄弟”に向けるごく普通の感情ではあったが、それが他の者よりもずいぶんと強いということにドイツは気づいていた。
例えば…スペインやフランスだって弟を可愛がってはいるが、一方でどこか支配したいと感じているはずだ。弟を可愛いと思うのは、どこかで彼らが自分の言うままになる事をわかっているからだ。もし、それが裏切られるようなことがあれば、愛した以上の熾烈さで、彼らは弟を憎むだろう。
それを指摘すれば、スペインやフランスはそれを馬鹿な事をいうなと否定するだろう。だが、心の底から否定することは出来ないだろうとドイツは思っている。
彼らの愛には打算が潜んでいる。
だが自分がギルベルトに向ける愛にはそんなものは存在しない。
自分がギルベルトに向けるものはもっと純粋なそれだとドイツは思っている。
もっと純粋で崇高なものだ。
彼はそれこそ本当にすべてをギルベルトに与えたかった。
彼が彼としてあるべきもの…人も土地も上司も財産も知識も力も彼自身さえも…
そうして命すら取られたとしてもドイツはそれでいいと考えていた。いや、その時こそが至上の至福だろうと考えていた。
それが正しいのか間違いなのかはわからない。
だが、ギルベルトに出会った瞬間に溢れ出した思いは、もう止められそうにはなかった。

自分はきっと、ギルベルトに全てを与えて…そして死ぬだろう。

高ぶった気持ちに突き動かされるようにぎゅっと抱きしめると、少しその力が強かったのかギルベルトがもがき、それに気づいたドイツは慌てて力を抜いた。
そうして少しだけ不安そうな目で自分を見上げるギルベルトに微笑んで見せる。
「大丈夫だ。何も怖いものはない。お前に恐れるものはないんだ」
なぜなら全てがお前のものなのだから。
ドイツはギルベルトのマシュマロのように柔らかな頬にキスをすると、身体を揺するようにして赤ん坊を抱き直す。すると「う、あー」と、よくわからない事を言いながらきゃっきゃっとギルベルトは喜んだ。
そんな弟にドイツは苦笑しながら、しかし今はまだたっぷりと甘えさせてやろうと思った。
「さぁ、ギルベルト。そろそろ陽がくれてきた。屋敷に戻ろうか」
今日は土産にかわいいくまのぬいぐるみがあるぞ。
そう言えばギルベルトは、力強くグングンっと身体を伸び上がらせるような仕草をした。

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