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眠り姫は誰を待つ?

「あ、兄ちゃん、目が覚めた?」

弟の声にゆっくりそちらを見ると、ヴェネチアーノが何故か泣きそうな顔をして笑っていた。
「変な顔…」
思った事を口にすると、「ヴェ、ひどいよ兄ちゃん」っと頬を膨らませ…そして、いつもの笑みを見せた。
それに少しだけほっとして辺りを改めて見回した俺は、自分が病室に寝かされていることに気づいた。
それに腕が…包帯でぐるぐる巻きだ。
なんで…?
そう思って白い包帯をじっと見ていると、「脳震盪(のうしんとう)だって」と弟が言った。
「脳震盪…?」
「そう。兄ちゃん、覚えてない?兄ちゃんテロにあったんだよ」
「テロ?」
そんな覚えは全くなかった。
「そう。兄ちゃんとドイツが待ち合わせしてたレストランが標的にされたんだ」
「は?」
そう言われても覚えているのは…昨日ベッドに入ったところまでで、今朝起きた記憶すらなかった。
脳震盪?テロ?ドイツ?レストラン?
なんだそれは…?
全く現実感がない。
「武装した三人組が、昼間のレストランに飛び込んできてね」
そう言って彼は、まるで自分が体験したように話はじめた。

 *

通りに面した明るいレストランは、気やすいレストランで、値段も手頃ということで人気がある。
時刻はもうすぐ正午を指す頃で、少しずつ賑わいを増していたときに…彼らは突然現れた。
彼らはいずれもモスグリーンの迷彩服にスカーフを頭に巻いていた。
肌がまるで見えないから人種まではわからないが、※※系の訛りがあるいずれも男。
彼らは営業中のレストランに突然飛び込んできたかと思うと、いきなりサブマシンガンをダダダダっと撃ち放ち、自分たちは神に選ばれたなんたら…という口上を口から泡を吹くような勢いでまくし立てた。
そして、ここにいる客は幸運にも神の生贄に選ばれたのだ…というような訳の分からないことを言った。
客達は半ば恐慌状態に陥ったが、銃口を向けられては逃げることも出来ずにただ硬直していた。
だが、彼らの幸運はここまで。

「だって、客の中にドイツがいたんだもん」

ドイツは、彼らがレストランに入ってきた時点で異常を察知し、丸テーブルを蹴り倒してそれを銃弾の盾にしたのだそうだ。
そして口上を述べている間に、素早く彼らの死角に回りこみ一人を引き倒し気絶させると武器を奪った。
気づいて人質に手を伸ばした一人の男の腕を吹き飛ばし、そして反応の遅れた一人にタックルをかけ押しつぶした。
その時点で彼は客の一人に、腕を撃たれた男を拘束するように指示をだした。
その間、おそらく10秒もない。
恐ろしく手際がよかった。

「すごいよ、映画を見てるみたいだったって客の人が言ってたもん」

ドイツはまず客の一人から受け取った荷造りひもで抑えていた一人の手足を縛る。
そして腕を撃たれた男も止血をしつつ、拘束。武器の類ももちろん忘れずに手際よく回収する。
レストラン内は未だ騒然としていたが、当初のパニックは過ぎ去っていた。間もなく救急隊が到着し、けが人(この時点で、テロリストの最初の乱射により3人は即死していた)の手あてを始める。
警察の到着が遅れていたが、それもすぐに来るだろう。
ドイツは客たちを気遣いながらも、気絶した男の所に最後に向かった。

「だけどね…」

男はたしかに気絶していた。
完全に意識をなくしていた。
だが…彼が倒れた拍子に、懐に忍ばせていた手製の手榴弾のようなもののピンが外れてしまっていた。
それは本来ならばピンを抜いて数秒後には爆発するはずのものだったと思われる。
その手榴弾は不発だった…はずなのだが…。
ドイツが彼を抱え上げようとしたとき…それが男の懐からゴロンと転げ落ちた。
ドイツはその時はおそらく…反射で動いていたのだと思う。
彼はとっさに“それ”に覆いかぶさるように飛びかかった。

そして…

 *

弟は途中から泣き出していた。
バカ弟が泣き虫なのは知っていたし、泣くところは何度だって見たことはあったけれど…だけど、こんなにも激しく泣く弟は珍しい。
涙はもちろんのこと、鼻水までたらして、顔を真赤にして…赤ん坊がひきつけでも起こしたように…。
「レストランの中はいろんなモノが沢山散乱してたし…通りにもいっぱい人が集まってたし…だから間に合わないって思ったんだと思う…。ドイツはすっごくいいやつだから…」
ボロボロと涙を流し、その涙を両手で交互に払いながら弟は言った。
「ドイツが跳びかかったその時に、爆弾は爆発しちゃったんんだ…」
その瞬間、耳をつんざくようなものすごい音がしたそうだ。
幸い、威力はそれほどではなく…男は他に火気は持っていなかったから、最悪の事態だけは避けられた。
だが…
「ドイツ…ドイツ…」
「死んだ…のか?」
俺が恐る恐る聞くと…弟はブンブンと首を横に振った。
「だけど、ひ、ひどい怪我で…今、あい…ICUに入れられてて…」
ヒグッと弟は大きくしゃくりあげた。
「ど、どうしよう兄ちゃん…ッ。ど、ドイツ、ドイツが…」
「な…泣くなよ」
俺はなんとかそう言ったが、それが何の慰めにもならないことは分かりきっていた。
「人の血液は輸血できないからって…今、ぷ、プロイセンが輸血に入ってるんだけど…」
それでも血が足りないって…。
他国の血を入れるわけにもいかないっていうし…どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしたらいいの?兄ちゃん。
「に。兄ちゃんのほうが辛いのに…お、俺…」
彼はワッと泣き出してしまい、もうしゃべれないようだった。

可哀想なほどに取り乱す弟。
だが、俺は…当の本人であるらしい俺は、彼の話を聞いても実感が持てずにいた。
だって覚えていない。
俺は本当にその場所にいたのか?
一体どこのレストランだ?
そしてテロにあったのか?
銃の乱射?
三人が死んだ?
爆発物が爆発した?
脳震盪を起こして俺は此処に運ばれた?
そんなニュース番組の中でしか見たことが無いようなこと…本当に俺が…?
いや、百歩譲って…怪我もしていることだし…それは認めてもいい。

だけど…弟の話を聞いてずっと疑問に思っていたことがある。

「なぁ、ドイツって誰なんだ?」

俺はベッドにすがりついて泣いている弟の背中をさすってやりながら、純粋な疑問を口にした。

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