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知りたいような、知りたくもないような

(独)にょ仏←英

彼女の名はフランシーヌ。現在26才。
十代で両親から莫大な遺産を引き継いだ世界でも有数の金持ちだ。
彼女自身は殆ど事業にはタッチせず、日々湯水のごとく湧きでてくる金で、悠々自適、贅沢三昧に毎日を過ごしている。
その彼女はデブで陰険な醜女…ではなく、モデルか女優かと誰もが思うような美女で、彼女は遺産を相続したときにメディアに取り上げられて以来、今も尚、魅力的な彼女の動向は世界中の人々の耳目を集めてやまない。
言動、ファッション、私生活…彼女のすべてが注目される。
彼女はまさに世界のトップスターだ。

そんな彼女が、世界に特大級のニュースを提供したのはつい先日の事だった。
『フランシーヌ孃、懐妊』
未婚であり、また恋の話なら山ほどありながら事実と思われる恋人報道もなかった彼女の突然の懐妊は瞬く間に世界を駆け抜け、あらゆる報道番組のトップを飾った。
彼女のニュースの後に回されたものの中には、某国首相の辞任や某大物政治家の汚職事件なども含まれてたことからも、彼女の存在の大きさがわかる。
一体、彼女の心を射止めた男は誰なのか?
そしてフランシーヌの“莫大な遺産”の元に“嫁ぐ”男とは一体どのような地位にある男なのか?
某政治家の息子、某宝飾店のオーナー、億を稼ぐと言われるテレビタレント、大物歌手に次々と曲を提供しヒットさせている作曲家、ウィーンでタクトを振る指揮者、彼女が贔屓にしているレストランの専任コック…果てはアラブの石油王に、30回も結婚と離婚を繰り返しているラスベガスのカジノオーナー、某保険会社を騙して莫大な金を手に入れたという伝説的な詐欺師…など、メディアは彼女のお相手探しに躍起になり、彼女の家(世界中に数多くある)にはパパラッチが詰めかけ、また彼女が出産の時に訪れるのではないかと言われているセレブご到達の病院にもマスメディアかけつけ…はたまた彼女とゆかりのある人物を取材し、彼女を見た騒ぎ立てる一般人の話から最新ベビー服やベビー用品まで…まさにメディアは彼女一色だ。

 *

「クソッ…!」

彼女の記事が書かれた新聞をぐしゃりと握り締め、移動中だったアーサーは苦々しく悪態をついた。
彼は昔からフランシーヌとは…そう、彼女が一躍メディアのスターダムにのし上がる前からの知り合いだ。
何かと意見が食い違い喧嘩することも多いが、それは喧嘩するほどなんとやらというやつで、長く友人関係を築いており、お互い口に出さずとも互いのことを親友だと思っているような関係だった。
少なくとも…密かに彼女に思いを寄せているアーサーはそう思っていた。
なのに…彼はフランシーヌの妊娠を記事によって知らされたばかりか、恋人の存在にもこれっぽっちも気づいていなかった。…教えられていなかった。
アーサーは裏切られたようなショックを受け打ちひしがれたものの、すぐにそれ以上の怒りを燃やした。
「くそ…フランシーヌのヤツ…」
いきなり子どもが出来ただと?
しかも報道によるとすでに妊娠3ヶ月目に入っている…。
二週間前にあった時にはなんにも言ってなかった…!
まして恋人の存在なんて…!
「誰なんだ………一体……」
アーサーはフランシーヌが恋多き女だということを知っていた。
メディアでも時折取り上げられていたが、男の影は多かった。だが、その全ては遊び…ちゃんと遊びだと分かっている男しか相手にしなかったし、子どもをつくるような馬鹿な事は絶対にありえない。
彼女はとてもしたたかで頭がいいのだ。
それなのに…一体なぜ?
黙って堕ろすならまだしも、わざわざメディアに流すなんて真似…
「まさか本気だとでもいうのか…?」
それこそまさかだ。
きっと彼女は自分がその男の事を愛していると勘違いしているだけだ。
きっと彼女は騙されているのだ。
きっと相手は碌でも無い男にちがいない。
彼女の美貌と財産目当ての卑しい男…。
そんな男に騙されて…。
とにかく腹立たしかった。
出し抜かれた自分にも。
知らぬ間に男を引きこみ、あまつさえ子どもまでつくっていたフランシーヌにも。
そして、彼女を騙し身ごもらせた男にも…。
美しいフランシーヌ…。
そんじょそこらの男じゃ太刀打ち出来ない様な一級の女…。
彼女の事をわかってやれるのは自分だけ。
そして自分の事を一番くれるのもまた彼女だけ。
口にこそしなかったが、彼女は自分のことを愛してくれていたはず…。
いつかは自分のものになるはずだったのに…。
それなのに…。

「許さねぇ…」

アーサーは呪詛の言葉を吐き、ギリッと奥歯を軋ませた。

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