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生き死にに挑みけり

モブ

「…お前か…」

炎に包まれ、息絶えようとしている街を歩いているとき、突然背後から声を掛けられ、玲治は純粋な驚きを覚えた。
たしかに彼は姿を晒していたし、誰にでも話しかけようと思えば玲治に話しかける事ができただろう。だが、この状況で…戦場のような有様になった東京で、そして悪魔の姿をした彼に話しかける人物がいるとは思えなかったのだ。
しかし果たして玲治が振り返ると、そこには所々焦げ、また破けたボロボロのワイシャツにネクタイを締めた三十代くらいの男が、額から血を流し鉄パイプのようなものにすがるようにして立っていた。
まさに満身創痍。
しかし、その目は闘志にギラギラと輝き燃えていた。

「お前が、この世界をこんな風にしちまった犯人…そうなんだろう!!」

喉を裂くような叫びに玲治は瞠目する。
勘のいい男だと素直に感心する。
もちろん、ただの“まぐれ”だという可能性の方がずっと大きいのだが。
「何故、そう思ったんだ?」
興味を惹かれて聞くが、
「お前が…お前が…」
彼の耳に、玲治の言葉は届いてはいないようだった。
「カナも、ケンタも…お前が…お前が殺したんだな!!!なんで二人が…俺の家族を…お前はッ!」
「誰だよ、それ」
私情にまみれた言葉に一気に興味が醒め、嫌悪すら露にした…が、それが…それこそが“人間”なのだと気づくと玲治の心にジワリと名付けようもないぬくもりのようなものが広がった。
渦巻く感情、まっすぐに向けられる敵意、燃え滾るような怒り…。
そう、それこそが…それこそが人が人たる証…。
心地良い、マガツヒのうねり…。

「美味そうだ」

玲治の声に男の奥歯が軋む音が重なった。
「お前にあいつらを殺す権利なんて無い!!!それなのに…!何故お前なんかにッ!!!」
カナは素晴らしい女性だった…ケンタはまだ5歳で…あいつには将来があって…カナはいつだって笑っていて………
玲治は彼に好感を持ちながらもうんざりとした。
「許さない…許さない…絶対に、絶対にッ!!!」
許さない、許さない、許さない…まるで呪文の繰り返す男の目は真っ赤に染まり、怒りで何も見えていないようだった。
事実…彼にはみえていないのだろう。燃える町並みも、彼の足元に転がる黒焦げの死体も…そして聞こえてはいないのだろう、遠くから聞こえる子供の声も、悪魔の上げる野獣のような咆哮も…そしてなにより分かっていないのだろう…彼の前にいるものが何者なのか…人間というものがどれほど無力であるのかを…。
男はふらふらとよろめきながら両足で立つと、鉄パイプをゆっくりと両手で持ち上げた。
「へぇ…」
どうやら、それで玲治に一撃を…いや、玲治を仕留めようという事らしい。
足が震えている様が、まるで生まれたての子馬を連想させて微笑ましいと玲治は目を細める。
「そんな様でやれるのか?」
それでは女子供とてやれないだろう。
玲治が笑うと、案の定すぐにふらついて肩を壁にトンっとついた。
だが…それでも彼はすぐにまた二本の足で健気に立つ。
未だ衰えぬ怒り…それは今こそまさに赤々と輝き、まっすぐに玲治を射すくめる。
それが玲治には心地良く、そして不思議と懐かしさを感じさせた。
玲治にはその“懐かしさ”が何処から来るものなのか理解できなかった。落ちてしまった彼には理解できようはずもなかった。だから…彼はそれに気づかぬふりをした。
目の前にはゆっくり、ゆっくりと近づいてくる男。
玲治はそれに合わせるようにゆっくりと右足を一歩引き、構える。
玲治からすれば彼など言葉通り“赤子の手をひねる”ようなもの。
だが彼の心意気には全力で応えてやらねばいけないような気がした。
それが礼儀なのだというような気がした。
彼に…人に…
最大限の敬意を表して…。

「死を差し上げよう」

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