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喪失増殖

読み返してないけど…

国という存在は余計なトラブルを避けるため、だいたい数年から十数年で住まいを変える。
それはもちろんドイツも同様であり、彼とその兄であるプロイセンはまさにその時期にきており、一ヶ月後の引越しを前に、ドイツは兄のプロイセンを新しい家に慣らす作業の真っ最中だ。
なんだそれは…?と思われる方もいるだろうが、プロイセンという男はどうも猫のようなところがあり、転居というやつがとても苦手であるらしい。
過去には次々と新しい国に出かけていっては戦争をしかけていた国とは思いがたいが、しかし定住の地を得、また大きな戦争、分断を経験し色々と心境の変化があったらしい。
プロイセン自身は割とあたしいことにチャレンジすることを好むし、新しい場所に行くのも楽しいだけで苦にはならない。
だが住居となれば別であるらしく、彼自身にもどうにもならないほどに引越しというものはプロイセンをナーバスにする。
だからこそ、ドイツは長い時間をかけて徐々に新しい環境に慣らしてやる必要があるのだ。

「でもおかしなものだな。フランスやスペインの家には平気で寝泊りできるのに」
運転するドイツが言うと、助手席の窓を開け憂鬱そうにプロイセンが外を見ながら「あぁ」とうつろに返事をした。
「車酔いは大丈夫か?」
「おぅ」
「今日は道路が空いているな」
「ん」
さっきから何を聞いてもプロイセンの返事は終始こんな感じだ。
いつもの騒がしい彼からは想像もできないほどにしおらしい。
ドイツは気遣うように兄の様子を伺い、「少し休憩をとるか」と、本日二度目、カフェへと車を入れた。
カフェの入り口に近い場所にドイツは車を停めるがプロイセンは動かない。
ドイツは仕方なく彼のシートベルトを外し、外に出て助手席側に回るとエスコートをするような丁寧さでプロイセンを外へと導いた。
「ドイツ、やっぱり俺は…」
「大丈夫だ。なにも心配はいらん」
やや強引にドイツは兄を引っ張って店内に入ると、窓際の席へとついた。
そうして正面からプロイセンの顔を見たドイツは、あらためて兄の顔色がとても悪いことに気づかされた。
「何か軽く食べておこう」
「いらね」
「サンドイッチかベーグルか、ワッフルもあるぞ」
「…いらね」
兄の様子にドイツは困った顔をしながら、兄の為に彼の好きなホットケーキとコーヒーをそれぞれ頼んだ。

「なぁヴェスト、俺、本当にいやだ」

注文を取りにきた店員が去ってしばらくした時、プロイセンは弱音を吐いた。
窓の外を見る彼の表情は悲痛に歪んでいる。
「離れたくない」
「そうはいっても、あの家はそろそろ十年になる。移動の時期が来てるのは知ってるだろう?」
あまり一所にいるのは良くない。“国”という存在に理解のない人間も少なからずいるし…他にも、現在のドイツにはネオナチの台頭を願う輩や、東ドイツ再建を望む輩等がいる。彼ら…ドイツとプロイセンという存在ををシンボル的に担ぎ上げようという者たちは少ないとは言えないのが現状だ。
「あぁ。けど、どうしようもなく不安だ。俺の存在が揺らいで、霞んで…そして消えてしまいそうだ」
「…だがそれは今の家に移るときも同じように言っていたぞ」
そう、今の家に移る時もプロイセンの憂鬱は深かった。
とても不安定でしばらくは本当にドイツは仕事を休み、彼につきっきりになっていたのだ。
だがそれも1ヶ月、2ヶ月と暮らしていく内に症状がよくなり、快活な彼へと戻っていった。
その時のことをプロイセンだって忘れたわけではない。だがそれはあくまで知識の上での記憶。
今の彼は、いままさに押し潰され、溺れ、引きずり込まれようとしているわけで、今度こそ本当にダメなのだという思いの方が強かった。
彼の世界は暗雲立ち込め、雨がザァザァと降っている。彼の身体は雨で冷え切り、また服の重みで今にも崩れ落ちそうだった。
「なにも外国に越すわけじゃない」
「あ、当たり前だっ!」
そんな恐ろしい事…。
それこそ真っ青になったプロイセンにドイツは驚きながらも、安心させるように微笑んで見せた。
「大丈夫だ。またゆっくり慣れればいい」
「な、慣れなかったらどうするんだよ」
「大丈夫だ。きっと慣れる」
「でも、もしっ」
と、その時、店員がやって来て、会話は中途半端に区切れた。

いつもは他人の分まで奪う勢いで食べるプロイセンだが、今日は好物のホットケーキを見ても一瞥しただけでドイツの方へ押しやろうとした。
「ダメだ。兄さん。無理にとは言わないが、食べられないわけじゃないだろう?」
体は健康なはずだとドイツが言えば、プロイセンはしぶしぶフォークを手にとった。
彼が病んでいるのは精神だ。肉体はそれに引きずられるように調子を崩し始めているが、まだ健康だと言える状態である。無理にも食べさせたほうがイイというのがドイツの判断だ。
「…それに、あなたが何を恐れているかは知らないが、あなたは俺の半身だ。今さらあなたが消えることはないし、そんなことは俺が許さない」
「…でも不安だ」
「わかっている。だから俺が側にいるだろう」
今も十分不安定に見えるプロイセンだが、今はドイツがいることで実は随分と落ち着いているのだ。
酷いときには狂乱し、家の中を荒らし回った挙げ句、二日ほど人形のようにまったく動かなくなったこともあった。
「…少しでもいいから食べてくれ」
ドイツが再度促すと、プロイセンはしぶしぶ手を伸ばしそれを口に入れた。
「…俺がそばにいるから大丈夫だ。今回も仕事はすべて外してもらったし、引っ越したあとも充分そばに要れる時間はとっている」
「………」
「そに今日の滞在は1時間程度を考えている。な、すぐだろう?」
「…本当か?」
「あぁ約束しよう。1時間だ。それが過ぎたらまっすぐに家に帰ろう」
「……あぁ」
プロイセンは元気のないままであるが、それでも少し表情が明るくなったようにドイツには見えた。
そして、不味そうにホットケーキを口に運ぶプロイセンを見ながら「一体何がそんなにあなたを不安にさせるのだろうな…」とつぶやいた。
フランスやスペイン…イギリスの家や日本の家ですら勝手に出かけて、その日の気分で宿泊したりもするので、移動がイヤだとか、新しい場所が嫌いだとかいうわけではない。
彼が執着しているのは、土地そのもののような気がする。
一度根を下ろすと…離れられないような…そんな磁力があって…、拠点と据えるとそれは深く根をおろし…
そんなことを考えていると、「多分…」とプロイセンは口を開いた。
「多分…違う」
「え?」
「俺が移動することよりも…お前が…」
「俺が?」
「お前が離れようとするのが嫌なんだ」
それはどういう意味だろうか…?
ドイツはホットケーキに暗い視線を落とすプロイセンを見ながら考えた。
「俺が…離れる?確かに俺は引越しをするが、それは貴方も一緒であって…」
「違う…そうじゃなくて…」
彼自身にも考えが煮詰まっていないのか、プロイセンは短い髪をガシガシと掻いた。
「違うんだ…お前が…ヴェストが“ドイツ”という地を離れてしまいそうな…気が…そう、勘違いしているというか…」
よくわからねぇ…。
そういって、ぎゅっと唇を噛み締めるプロイセンにドイツは複雑な気分になった。
もしかして…彼は、まだ自分が庇護対象であったときのように、“ドイツ”が他国に奪われてしまう事を恐れているのだろうか…?拠点を移すということを…つまり、プロイセンから離れ、他国に身を移すということとそう曲解しているのではないか?
もちろんそんな事実は全くないし…彼自身、それを分かっているとは思うが…だが、もしかしたらそうなのかもしれない。
そして時間を置くと彼の中でねじれがゆっくりと解消され、“ドイツ”という存在が変わらず自分のそばに在るということが納得出来る…。
………無い話ではない…かもしれない。
だが、それがそうだとして、口にだすようなことはドイツはしない…いや、できない。
藪をむやみに棒でつつくような真似はしたくなかった。
彼に出来るのはせいぜい、それが事実ではないことを形として表現してやることだけだ。
「大丈夫だ…今回もきっと慣れる。貴方は強い人だから」
「……そうありたいもんだな…」
「貴方ならきっと乗り越える。これまでのように、これからも」
貴方は俺の兄であり、そして師であり、目標であり、また半身でもあるのだから。
プロイセンのフォークを持った手をぎゅっと握っていうと、プロイセンの顔色が少しよくなり…そして数日ぶりに彼は笑みを浮かべてドイツをしっかりと見た。

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