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甘えは無し

でもプーはルートに甘いと思う
モブ視点 駄文

銀髪に紅玉の目といえば、俺たちの間では“鬼神”として知られている。
時々ふらりと現れる彼は、それこそ鬼のようなしごきを俺たちに課し、俺たちのプライドを木っ端微塵に打ち砕き、俺たちを疲弊のどん底へと突き落とす。
だから俺たちは彼が姿を現すとひどく緊張するとともに精神にやすりをかけられているような気分になる。
まるで飢えた虎と同じ檻に放りこまれたような気分…とは、同室のワイラーの言葉だが同意するしかない。
だが実は緊張するのは俺たちだけではないということに気づいたのはごく最近。
彼がくると基地全体に緊張が走り、誰もが殺気立ってそれこそ有事の時のように空気がピリピリと電気を帯びるのだ。
誰もが鬼神の顔色を伺い、彼の機嫌を損ねまいと必死。
そして…来た時と同様にふらりと彼が帰ってしまうと、張り詰められていた緊張の糸がフッとやわらぎ、基地全体がほっとため息をつくのだ。

その鬼神が明日来る。
いつもふらりと突然やってくる彼が、予告してやってくるのは異例。
基地では明日に備えてか訓練はすべて午前中で切り上げられ、誰もが嵐の前に空をそっと仰ぐようにその日を過ごしていた。

「なぁニコ。鬼神ってのは何者なんだろうな?」

同室のワイラーがポルノ雑誌をめくりながら言った。
「何者って…少佐だろ?」
「それはわかってる。けど、あいつぁどう見積もっても二十代半ばだぜ」
それにしちゃ出世が早いし、じいさん連中があからさまにへこへこする意味がわからないというのだろう。
「確かにな。いくら優秀でもちょっと納得がいかないな」
「だろう?もしかして誰かお偉いさんの息子かな?」
そう言って彼が口にしたのは現首相の名前で、俺は少し笑ってしまった。
「だったとしても首相の息子は一般人だ。多少の気遣いはあったとしても、彼に対する態度は違うだろう」
「そうだよなぁ」
ワイラーはポルノ雑誌を放り出し、ベッドにごろりと横になった。
「とにかく恐れられてるってのは確かだよな」
「こえぇ、こえぇ。実際、ギャングの頭やってた頃の叔父貴よりこえぇよ」
ワイラーはおどけていい、大きくあくびをした。
明日は鬼神のしごきが待っている。
消灯には少し早いが、俺たちは早々に寝てしまうことにした。



翌日、目が覚めた時にはもう基地の中は緊張に包まれていた。
ただし、それだけじゃなくて、なんだか妙な雰囲気だった。
どう変なのかを具体的にいうのは難しいのだが、たしかに俺たちのような下の兵隊は間違いなく緊張しているのだが、上の連中の中には緊張しながらもどこかリラックスしたような奴がちらほらいる。
もしかして鬼神のものすごく機嫌がもの凄くいいということだろうか?
俺とワイラーは首を傾いだ。
「まぁどっちにしろすぐにわかるだろうよ」
ワイラーの言葉は正論だ。
そして、俺たちは間もなく知ることになる。

「あいつぁ誰だ?」
グラウンドで鬼神を見たワイラーが目を細めて言った。
彼の言葉を受けて鬼神の方を見ると…見慣れぬ男が鬼神の傍に立っている。
年齢は鬼神よりも少し若いくらい。隣に立つ鬼神よりも少し位の低い軍服を着た彼は、長身でガタイのいい男だ。
「さぁ、見た事がないな。別の基地のやつかな?」
「金髪に青い目ね、なんだか鬼神と正反対だな」
「あぁ、だが顔を見ろよ。似てる」
「おい、似てるってことは兄弟とかか?」
さぁ。
俺は肩をすくめた。
男と鬼神はなにやら手振りを交えて話している。
そしてそのうち、鬼神がしょうがないな…というように…
「お、おい、笑ったぞ」
「あ…あぁ」
これまで一度として俺達の前では見せたことのなかったようなほほえみを浮かべた。
そして男の肩に腕をかけて寄りかかるような格好をとり、間近に顔を合わせて話を続ける。
「なんかこう…あれだな。ぬるくなったミルクセーキが喉に絡んでるっていうか…」
「胸焼けしそうだって言うのか?」
「あぁ、それだそれ。でもって、こうコートが必要な気が…」
「…うすら寒いね」
「そうそれ」
くつくつ笑っている俺達に集合の号令がかかった。

鬼神の横にいる男。
彼もまた俺達の指導に回るのかと思っていたが…実際には違った。
彼は俺たちの傍に立ち、同じように訓練を受ける気らしい。
「なぁ、お前、名前は?」
好奇心の強いワイラーが早速話しかけると、彼は少し驚いた顔をしながらも「ルートヴィヒだ」と答えた。
渋い落ち着きのあるいい声だ。
「よし、ルートヴィヒだな。俺はワイラー、そしてこっちがニコだ。よろしく」
「あ、あぁよろしく」
彼は戸惑いながらも笑顔らしきものを浮かべ、俺たちの手を取った。
「なぁ、早速聞くけど、お前鬼…」
「ギルベルト少佐だ」
「あ、そうそう、ギルベルト少佐とはどんな関係なんだ?」
「あぁ。兄弟だ。兄がいつも世話になっている」
律儀に頭を下げようとする彼をワイラーが慌ててとめる。
「ばっか、世話になってんのはこっちの方だ。なぁ?」
「あぁ。あの人がいると士気があがる」
そして胃がキリキリ痛む。生きた心地がしない。生存意欲が高まる。猛獣に吠えたてられるいたいけな仔うさぎちゃんになったような気がする。
「そうか。ならいいのだが」
「お前は他の基地に居たのか?ガタイがいいし…」
会話の途中だったが、ここで上官が前に出てきたので会話はストップ。
さて…地獄の始まりだ。
俺とワイラーが苦笑を交わすのをルートヴィヒは不思議そうに見ていた。

最初俺たちは機嫌が良さげな鬼神を見て、もしかしたら訓練メニューが甘くなるんじゃないかと期待した。
特に彼の弟が訓練に参加すると耳にはさんだやつはますます期待したはずだ。
だが結果は…いつもより三割はハードになった。
死ぬかと思うほど走ったり、跳んだり、這ったり、撃ったり、引きずったり、持ち上げたり、声を出したり、ぶちのめされたり…まぁ色々とした。
午前中だけで、何人かが意識を失いぶっ倒れ、何人かが落とされ、何人かがイタリア人みたいにママに助けを求め、何人かが気がふれかけた。
誰もがついていくのにやっと。
必死に彼のメニューに食らいついているような状態。
もちろん「やつはサディストにちがいない」とぼやいたワイラーも、その言葉に返事すらできなかった俺も同様だ。
そんな中に一人だけ例外がいて…それが鬼神の弟であるルートヴィヒだった。
もちろん彼もつかれてはいるし、息は上がっている。
だが、俺たち…しごかれてる連中の中じゃ、彼が一番余力を残していた。

「奴にも二つ名が必要だな」
水分補給の休憩時間にワイラーが言った。
「オーディンか?それともトールか?」
北欧神話の英雄の名を上げると、ワイラーは少し考え「ヴェアヴォルフ」と言った。
「狼男?なんでだよ」
「なんとなくだよ。狼っぽい」
「そうかね」
よくわからない。
だが、化け物って点では同意だ。
チラリとルートヴィヒの方をうかがうと、彼はもう次の射撃訓練の準備をしていた。
「こりゃ、鬼神のやつ、あいつがぶっ倒れるまでやるんじゃねーか?」
「…いやなこと言うなよ」そんな気がしてきたじゃないかと言えば、ワイラーは力無く笑った。
まったく冗談じゃない…と思いつつ、俺は内心覚悟を決めていた。
この時には気付かずにはいられなかったのだ。
鬼神は弟と訓練できるということが楽しくてたまらないらしいということ。
そして鬼神のしごきメニューが、ルートヴィヒを基準に作られているということ。
本当にコレは朝まで付き合わされる可能性も…なんて、俺は口の軽いワイラーではないから言わない。

結果的に言えば…予測は外れた。
鬼神は夕方近くには訓練を切り上げ、俺達に解散を告げた。
まぁ…解散と言われてそのまま素直に兵舎に帰る奴はいないのだが…といっても、訓練を続けたいという熱い意思…なんてものではなく、誰もがその場に崩れ落ちてしばらくは立ち上がれないからだ。
「hey Nico, You still alive?」
某戦闘機ゲームの有名な台詞をパロってワイラーが言う。それに「なんとか」と返すと、彼は口角を上げてニヤリと笑った。
「ったく…マジであいつサディストだな」
「…あぁ。しかも自覚なしだ」
「だろうな…それにほら、見てみろよ」
ワイラーに促されて、彼の視線をたどれば…
「おい、嘘だろ…」
今朝と同じような調子で、笑顔で話している鬼神とルートヴィヒの姿。
「あいつ、化物かよ」
「だよな…あいつだってさっきまでキツそうにしてたのに…」
もう起き上がって平気そうな顔をしている。
信じられない。
ルートヴィヒは、ざっくばらんになった髪を手ぐしでかき上げ、鬼神に向かって何か言ってる。
それに鬼神はやっぱり笑顔でうんうん頷き、ルートヴィヒの腕を小突く。
「仲いい兄弟だなぁ…」
「…あぁ…けど、まさか、あいつ、此処にこれから所属する気…じゃないよな?」
「うぇッ?!」
俺の言葉にワイラーはぎょっとし…俺達の会話を聞いていたらしい連中も顔を青くした。
「うわ…嫌なこと言うなよ。KY」
…たしかに。
もし、ルートヴィヒがうちの基地に所属することになったら…、いままでひと月に1度か2度ふらりとやってきていたはずの鬼神は、間違いなく毎日通ってくる。
なんて…なんて恐ろしい想像だ。

いつもいつも…鬼神の訓練の後は心身精神ともにグロッキー状態になる。
身体の疲れはもちろんのこと、自分の不甲斐なさに落ち込み、またプロ意識を完膚なきまでに破壊される。
しかし、今回はそれ以上だ。
なにしろ、誰もついていけるはずがないと思っていた鬼神のしごきに、かるがるとついていった男がいたこと…

そして…

「どうだ?いい運動になったろ?」
「そうだな」
「毎日机にかじりついてるばっかじゃだめだぜ」
「あぁ…いい運動不足解消になった。今日は誘ってくれて感謝している」
「ケセセ」

このとどめ。

どうやら、彼が基地に所属するということは無いようだが…それよりも…

“いい運動”?
“毎日机にかじりついてる”?
“いい運動不足解消になった”?

おいおい…こいつら正気か?
俺は彼らの会話を耳にしたとたん、気が遠くなった…。
そして…俺の脳裏に、田舎で羊を飼っている両親の姿が蜃気楼のように浮かんだ。
それはワイラーも同じだったらしく…「……兄ちゃんが、事務所手伝わないかって言ってんだよなぁ…」とぼやいた。
そしてまた、周りを見渡すとワイラーと同じように遠い目をしたやつらが累々としていた。
彼らはそんな風に屍同然になっている俺達に向かって、

「それにしても…兄さん、少し甘いんじゃないか?」
「あー…やっぱそうか?…今度からはもう少しタイトなメニューつくんねーとなぁ…」

さらに鞭をあてて帰っていった。

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