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私は我儘ですか?

分かりにくい。
テレビの報道で真選組の局長…つまり近藤さんが怪我を負い入院したということは知っていた。
でも、

「命に別状はなかったんじゃありませんか?」

そう聞くと、煤けた隊服を着た土方さんは、まぁとかあぁとかそんな風な事を言った。
「でも一時は危篤だったんだ」
「“でも”もう平気なんでしょう?」
ことさら嫌味に言った私に彼は舌打ちして、「それでも、まだ数日は病院をでられねぇんだ」と言った。
「今回の件では、一般人にもけが人だしちまったし…近藤さん落ち込んでるんだよ」
「それと私の何が関係あるっていうの?」
冷たい目で見てやると、彼は忌々しげに私を睨みつけた。
「それ、本気で言ってるんだとしたら、俺ぁあんたを軽蔑するぜ」
「もちろん本気よ。…けどいいわ」
殺気を帯びた目をしっかりと受け止め、私は言う。
「大事な常連さんでもあるものね。行ってあげてもいいわ」
もちろん送り迎えはしてくれるんでしょう?
私の言葉に彼は苦虫を百匹くらいまとめて噛み潰したような顔をして、表の方を顎で指した。

病院につくまでの間、私と土方さんの間に会話は一切無かった。
彼は私の態度に怒っていたし、それに、私も決して機嫌がいいとは言えなかったから話す気にもなれなかった。
別に土方さんに怒っているわけではない…と言いたいところだけど、それは違う。
私は私を呼び出したあのゴリラの事はもちろんだけれど、彼にも腹を立てているのだ。
彼の態度とか、口調とか、煙草の煙とか…そういうものとは別のところで。

 *

彼がいるという部屋は個室らしい。
突然呼び出されたとはいえ、たとえ相手がゴリラだとはいえ、見舞い品の一つも無いのは失礼かしら…と思ったけれど、部屋の前にパイプ椅子を出して座っている真選組隊士の姿を見てどうでもよくなった。
その隊士は私の姿に気づくと椅子から立ち上がり、肩をすくめるようにして私に頭を下げた。
「ご苦労様です」
「…えぇ」
ご苦労様って…私は真選組の人間じゃないんだけど。
「どうぞッ!」
「……」
堅苦しい男に小さくため息をつき、私は部屋へと入った。

部屋は薄暗く明かりが落とされていた。
そっと足音を殺して彼が寝ているであろうベッドに近づくと…額に包帯をまいた彼は目をとじていた。
穏やかな息は彼が深く寝入っている事を示している。
「来て損したわ」
彼の右手はベッドの上に投げ出されており、そこに刺された針をたどれば血液が入った袋へと行き着いた。
血の香りはしないが、強い消毒液の臭い。
ハンガーにかけられた彼の隊服はボロボロといってもいい状態だった。
そしてベッドの近くには、鞘に入れられないまま刀が立てかけられている…。
その意味がわからず手を伸ばした私は、触れる前にそれがひどく曲がってしまっている事に気づいた。
あぁ、きっとそのせいで鞘にはいらなかったんだわ…。
私はじっと曲がった刀身を見つめ小さくため息をついて、パイプ椅子に腰掛けた。
見飽きたゴリラ顔。
だけど、今日、この時は口が閉ざされているせいか精悍にすらみえてまたため息が出た。

こういう時、映画とかドラマならばきっと私が独白なんかしちゃうんだろう。
“まったくこんなに怪我をして” とか “無事でよかった” とか “心配したんだから” とか?
もしかしたら、愛の告白なんてものもあったりするのかもしれない。
だけどもちろん私たちはそんなに甘い関係じゃないし、大体、私はこの男が大嫌いだ。
日々さんざんストーカーはするし、セクハラはするし、私有地に不法侵入はするし、ゴリラだし、下品だし、恥ずかしげもなく街中で愛を叫ぶし、勝手に怪我をするし、私が一番だと言っている割に優先するのはいつだって真選組…だし。
…いや、今のは無しだ。
とにかく、私はあいつが嫌いなのだ。
今日、此処に来たのだって彼には店でさんざん散財させているからで、そして彼の部下である人に懇願されたからで…。
…今のも無し。
なんだかぐちぐちぐちぐちと私らしくない。
どうしたのかしら?
…きっと薄暗い病室なんかにいるせいね。
陰気な雰囲気に飲まれてしまったんだわ。

ぼんやりと椅子に座って…彼の顔を見つめて…もうどれくらい時間が経ったんだろう。
近藤さんは私の存在には全く気づかずにまだ眠っている。
私がすぐそばにいるのに…口説かなくていいんですか?
そう胸の中でつぶやいて、自分の馬鹿さ下限に奥歯をかみしめた。
なんだか無性にいつものように彼の頬をぶん殴りたくなって…だけど病院で彼の怪我を増やすわけにもいかなくて、拳をぎゅっと握り眠るゴリラから目をそらした。
すると目に飛び込んできたのは、誰かの見舞いの品らしい果物の入った籠。
私は薄暗い中で、真っ黒に見えるりんごを手にとった。
…ドラマなら、綺麗に剥いてあげてそばに置いておく所…。
いや、それとも手を握って看病していて、朝そのまま眠っているパターンか。
でも、これはドラマではないし、私は彼に好意を持っているわけでもないから…

がぶりと一口かみついて、欠けたりんごを彼の胸の上に置く。

せいぜいこんなところ。
なんだかひどく時間を無駄にしてしまった気がする。
私は口の中でしゃりしゃりとりんごを噛みながら、立ち上がり部屋を出た。
すると、入るときにいた隊士が飛び上がるようにして立ち上がり「ご苦労様です!」と大きな声で挨拶した。
ご苦労様?
本当に。

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