遠慮なくおいで

タレント:ロマ マネージャー:独
いつになくロマーノがかなり押せ押せです。むしろ別人

男同士で恋愛をしようってのは、色々と問題がある。
いくら世間が同性愛に寛容になったからといって、それが認められるのは自分らの近くにそんなやつらがいない場合だけ。
同姓カップルが身近にいるとなれば、その反応は自ずと変わってくる。
「俺は差別なんてないし」「私は応援してるよ」なんていっても、大抵はその目の奥に拒絶が潜んでいるし、他所では何を言われているかわかったものじゃない。
今はそんな時代じゃない…どこの田舎だよ…なんて言うかもしれないけど、根本的な拒絶感はそう簡単に拭えるものじゃない。大体、そう言っている奴に限って、カミングアウトした途端に態度をがらっと変えたりするもんなんだ。
ゲイの俺が言うんだから間違いない。経験あるし。
だから俺みたいな奴は世間じゃ随分と苦労してるはずだ。
もちろん俺も…ではあるが。
俺はまだついている方だと思っている。

俺はタレントで、あいつはそのマネージャー。
怪しまれることなく一緒にいることが出来るし、部屋に泊まっていったからといって騒がれる事もない。
むしろ事務所からは余計な心配をしなくていいと歓迎すらされている。(女の影がないことは、事務所にとってプラスでしかない)
もちろん隠さなきゃいけないのは変わらないし、万が一バレてしまった時のダメージは他の奴よりずっと大きいけれど、そんなヘマはしないし…。
問題といえば、あいつ…ルートヴィヒが俺との関係を認めてないってことくらいか。(あいつは俺との事を仕事のひとつだって決めつけてる)
さらっと言ったけどすごく大きな問題…ではない。
だって俺は大した問題だとは思っていない。
あいつは賢い割に頭がガチガチで柔軟性がないから、戸惑っているだけ。
ほらカートゥーンでよくあるじゃないか。キャラクターが何かに追いかけられて、地面がなくなってるのに気づかずに、走り続けて…ってやつ。
そう、本当はとっくに落ちてるのにさ。
まぁ、認めさせる自信ならたっぷりとあるし、身体が先行する関係ってのもありだろう?

 *

「明日は朝8時には迎えに来るから、それまでには準備をしておいてくれ。それから、夜更かしはせずちゃんと睡眠はとっておくんだぞ」

そんな事務的な事を言ってさっさと帰ろうとする不届き者の腕を引いた。
「なんだ…」
「なんだって、わかってんだろ。泊まっていけ」
「そ、それはできない。一度事務所に戻る予定が…」
「んなの関係ねぇ。俺が居ろっていってんだから居ろよ」
わがままな王女様みたいに横暴に言ってやると、彼は困ったような顔を作った。
少し前は、馬鹿を言うなととり合ってももらえなかった。ついこの間までは、お願いだからそんなことを言わないでくれ…と懇願されていた。でも一度流されちまってからは、こんな態度を取ることが多くなった。
もう拒否なんて拒否できないくせに。
「なぁいいだろう?」
さっさと観念して認めちゃえばいいのに。
俺の事が好きだって。
愛しちゃってるって。
そうしたらこんな面倒な手順を毎回毎回律儀に踏む必要がないのに。
そうしたら楽になれるのに。
「いや、これから社長に今月の報告をしなきゃいけないんだ」
「そんなの明日だっていいじゃねぇか」
「だが…」
「それにこの時間じゃあのひひじじぃとっくに家に帰って寝てるぜ」
そういって短針が12を指している時計を指さす。
それでも渋い顔をするルートヴィヒに、
「なんなら、今から女の子呼んだっていいんだぜ?」
と、携帯をパカリをひらいて脅しをかけると、
「ま、待て」
ようやく折れた。
ったく、本当に面倒だ。
こんなやりとり、もう両手の指の数では足りないくらい繰り返しているのに、こいつはまだわからないのだ。
俺より頭がイイくせに。
いい大学だってでてるくせに。
公認会計士の免許だって持ってるくせに。
ほんとアホ。
きっとジャガイモとヴルストばっかくってるせいで、脳が劣化してんだ。
「女性を此処へ呼ぶのはちょっと困る」
「ちょっと?」
「いや…かなり」
「お前が?」
彼のネクタイをぐっと引っ張ってやると、彼は苦しそうに一度顔をしかめた後、ゆっくりと頷いた。
こいつが困るってのは本心だと思う。
たとえ彼自身は「仕事上で困るのであって~…」なんて心の中で言い訳をしていたとしてもだ。
俺には分かる。
じっと見つめるとうろたえて、それでも見てると赤くなって、ネクタイを引っ張り唇を合わせるとあいつはようやく自分の中で何らかの折り合いをつける。
「ロヴィ…」
だけどお生憎様。
「あ、そうだ。腹は減ってるか?ジャガ野郎」
俺に落ちたことも素直に認めて無いくせに、こんなトコで調子に乗って貰っては困るので、俺はあえて一度突き放しておく。
「え、あ、いや…」
駆け引きって言葉は知ってても、それを実地で知らないルートヴィヒは鼻白む。
そんな彼を見るのは楽しい。みっともなくうろたえやがって。
「そ、じゃ、風呂いれてきてくれよ。コーヒーいれとくから」
「わ、わかった」
彼は逃げるように風呂場の方へと立ち去った。
きっと今頃、「俺は何を勘違いしてたんだ…」とかなんとか悶えてるに違いない。
ほんと馬鹿だ。
さっさと認めちゃえば楽になるのに。
さっさと認めちゃえば甘い夜をフルコースで味合わせてやるのに。
さっさと認めちゃえば俺は全部お前のものなのに。

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