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風鈴

久々なのでリハビリ
シャララララ…

涼し気な音がしてふと視線を泳がせると、その先に風鈴売がいた。
木陰に腰を下ろした男のそばにはちいさな荷車があって、その上に竹で支柱が組まれそこに大量の風鈴がぶら下げてある。
涼しげな音と、陽の光を弾くガラスに思わず目を細めると、
「風鈴か」
少し前を歩いていたはずの土方が、足を止めて斎藤と同じ方を見ていた。
「えぇ…もう夏ですね」
斎藤が答えると、彼は太陽をさがすように空を見上げ目を細めた。
「そうだな。ずいぶんと陽が近い。今はまだ涼しいが時期に暑くなるだろう」
「えぇ、井上さんもそのように言っていました」
「源さんが。それなら本当に暑くなりそうだ」
嫌そうに言った彼は、すいと風鈴売の方へと足を向けた。
「おう、親父さん。儲かってるかい」
「え、あぁ、まぁそこそこだね」
「これ、あんたが作ったのかい?」
「半分はな」
「半分?」
「俺は絵師なのさ」
男は優しげに微笑んだ。
「ふぅん。やっぱり、売れ筋は金魚の柄かい」
「そうさね…」
ぽんぽんと男と会話を重ねる土方を斎藤は少し羨ましく思った。
斎藤はあまり饒舌な方ではない。いや、むしろ無口と言っていいだろう。
それでも知った相手とならなんとか会話を続けることができるが、初対面の相手ともなれば殆ど口が動かない。
今更話のうまい男になりたいなどとは思わないが、彼のようにすんなりと会話の糸口がつかめるのがほんの少し羨ましかった。
「…じゃぁいくつかもらおう。金魚に朝顔、蝶がついているのに、鞠みたいな模様のやつ…」
それにあっちとこっちと、土方は10あまりもいっきに風鈴を買い込んだ。
思わず斎藤が、屯所を風鈴だらけにする気かと聞くと、土方はきょとんとしたような顔をした後腹を抱えて笑い出した。
「ばか。誰が屯所になんかやるかよ」
誰がそんな間抜けなことをするか。

「これは女に贈るんだよ」

土方の言葉に斎藤は目がさめるような気分を味わった。
そして自分のにぶさに舌打ちしたい気分になった。
「はは、そんな顔をするなよ」
土方はぽんっと斎藤の肩を叩いた。
「お前も買っていったらどうだ?島原に馴染みの女がいるんだろう?」
言われて斎藤が思い浮かべたのは、時々世話になっている相生という名の大夫だった。
だが…
斎藤はゆるりと首を横に振る。
「必要ないでしょう」
それに自分が贈っても喜ぶ気がしないというと、土方は眉を潜めた。
「おいおい、相生って女はお前にずいぶんいれこんでるって聞いたぜ?」
「どうせ原田さんあたりからでしょう」
デマですよ。
「そんなことはねぇだろう。…まぁ、そうだとしても一つ贈ってみたらどうだ?女ってのは贈り物には弱いぜ」
値段は関係ないのだ。
そういう土方には説得力がある。
だがだからといって、斎藤は女に風鈴を買ってやろうなどという気は起きなかった。
別に金が惜しいというわけではなく、自分が女に贈り物をする姿が想像できないのだ。
だから斎藤は「いい」と固辞したのだが、土方はそれを意地っ張りだからだととったようだ。
彼は追加で風鈴を一つ購入すると、無理矢理に斎藤にもたせた。
そして
「お前、明日は非番だったろう。こいつで男前を上げてきな」
色男はほほえむ。
その顔は、いいことをしてやった…というような満足感に満ち満ちていて、彼を尊敬する斎藤としてはもう断りようがなってしまった。
「ありがとうございます」
斎藤が礼を告げると、土方は満足そうに頷き軽い足取りで歩き出した。

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