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攻略するつもりは無かった 04

近くの駅の中にあるカフェが俺のバイト先だ。
飲み物とちょっとした軽食を提供しているちょっと高級感のある店だ。
土曜のバイトが終わった俺は、同じく駅の中にあるケーキ屋でケーキを3つ購入した。
今日は同居人の兄であるギルベルトが部屋に来ているはずなのだ。
ただ同居人の兄が訪ねてくるだけ…あるならばここまで身構える必要はないと思うが、聞くところによると随分過保護な男であるらしいから緊張する。
アパートに帰ると向かいに住む男と出くわして挨拶をしたのだが、なぜか気の毒そうな顔を向けられ頑張ってと声援を受けてしまった。
その意図する所は不明だが、とりあえず今部屋を追い出されても住む場所がないから少しでもいい印象をあたえる為に頑張ろうと思う。

 *

「ただいま」

声を掛けて扉をあけると…目の前に仁王立ちした男が顎を引いて立っていた。
驚き身をすくませる俺を睨み付けた男は、ルートヴィヒの兄だろう。
ルートヴィヒと同じくらいの身長、同じ筋肉質だが一回り細い体格、短く刈った白金の髪に、石榴を思わせる赤い目…。
弟に似た顔立ちだが彼の方がシャープで間違いなく二枚目なのだが、まとった雰囲気が剣呑過ぎてイカツイルートヴィヒよりも更に怖い。
なんとなく弟にゲロ甘なイメージ的にクマのプーさんみたいな兄を想像していたが…これじゃ野生の飢えた狼だ。
ある程度敵視されるのは覚悟していたが…これは殺気を向けられてないか?
怖すぎる。
目の奥からじわっと涙が込み上げそうになりながら硬直していると…
「何を威嚇してるんだ、兄さん」
ルートヴィヒが丸めた雑誌でポカンとギルベルトの頭を叩いた。
途端にギルベルトは
「ルッツ!」
とルートヴィヒの相性を呼び振り返ると、情けない顔を作った。
「おかえり、ロヴィーノ。」
「あぁ…」
飛びかからないように…とでも言うように、ギルベルトの前に手を伸ばしているルートヴィヒ。
扉をすり抜けるように中に入り、買ってきたケーキを渡すと彼は嬉しそうに微笑んだ。
「気を使わせたな」
「いや、べつに。俺が食いたかっただけだし…」
そうしてチラリとギルベルトの方を見ると、彼は憤然とした顔で俺を睨んでいた。
同性の同居人を品定めする…というよりは娘のこ……いや、なんでもない。
「あ、えと…ロヴィーノ…です」
ケーキを持ってルートヴィヒがキッチンに行っている間に自己紹介をすると、彼は睨んだまま「ギルベルトだ」と吐き捨てるように言った。
そして、
「言っとくけど、俺はお前のことを認めたわけじゃないからな」
続けられた言葉に、なんとも反応が出来なくなる。
「チクショウ…俺の可愛いルッツをたぶらかしやがって……」
「た、たぶらかす?」
「そうなんだろうが!俺のルッツが俺のそばを離れて暮らしたいなんて…!」
「いや…それは大学が離れてるから仕方が無いんじゃないか?」
「うるせぇ!てめぇがたぶらかしたに決まってる!」
今にも噛み付かんばかりに吠えられ、俺はもう泣きそうだ。
するとまた、
「兄さん!」
ルートヴィヒが助けに来たので、俺は慌てて彼の背中に隠れた。
「チクショー、てめぇの兄貴、めちゃくちゃこえーぞコノヤロウ…」
背中にぴったり張り付いて文句を言うと、彼は「悪いな…」と小さく俺に謝り、それから「兄さん!」とまた声を荒らげた。
「なんだってそんないじわるな態度を取るんだ!」
「ルッツ…だって…ッ!」
「だっても何もない!ちゃんと謝れ!」
ルートヴィヒに叱られ、ギルベルトはしぶしぶ「悪かった」とつぶやき…すぐにそっぽを向いた。
そしてソファに座ると、もうこれ以上は謝らないというようにテレビのスイッチを入れた。
「…本当に悪いな」
「べ、別に。けど、殴らないよな?あいつ」
「あぁ、暴力は振るわないと思うが…一日だけ我慢してくれ」
俺は、彼が俺を一日よそに置きたかった理由がとてもよくわかった。
ギルベルトはルートヴィヒの事を、温室で丁寧に育てた花のように大事にしているのだ。
きっと彼にとっては女だろうが男だろうが、ルートヴィヒに近づく者が憎くてたまらないのだろう。
しかし…だからといって、成人した男があの態度はどうかと思う。
それはきっとルートヴィヒも同じで…彼が兄の元を離れて生活しようと思った理由のひとつに、家が離れるという以外にその事があるのではないだろうかと俺は思った。

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