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目障りなフリして

読み返してない。

午前1時。
すべての営業を終了し、閑散としたフロアでは新人のホスト達がテーブルを片付けている。
空き瓶を片付ける者、テーブルを拭く者、フロアにモップをかける者…。
キャリアが長く、また店では上位ランクを常にキープしているフランシスは、片付けに手を貸すことなくバーカウンターに座ってグラスをくねらせている。
そして、「ねぇ」とカウンターの中でグラスを拭いているルートヴィヒに声をかけた。
グラスを拭く彼はこの店で働いてはいるものの、接客は一切せず酒を作ることを専門にしている男だ。
顔が悪いということはない(むしろ整っている方だ)のだが、どちらかというと強面で、また性格的にもあまり接客に向いていない。
女性好きのする甘いマスクを持った天然フェミニストのフランシスとは180度タイプが違う。
「今から一緒に何か食べに行かない?」
女性を誘う時のように甘くほほえむが、ルートヴィヒはうっとりとするどころか胡乱な目をフランシスに向ける。
「悪いが…遠慮しておく」
「なんでだよ、めっちゃくちゃ美味い焼き鳥やさんあるんだって。屋台でさぁ、川沿いの…」
「悪いが…」
「つめたいねぇ、ルートヴィヒ。だから女にモテないんだよ」
「必要ない」
きっぱりと言い切るルートヴィヒにフランシスはニヤリとして店内を見渡す。
そして忙しく片付けている中に、足りない人間を見つけると少しだけ身を乗り出して「なぁ」と声をかけた。
「なんだ」
「もしかして…くっついたのか?」
「…は?」
ニヨニヨといやらしい笑みを浮かべるフランシス。それを見て、ルートヴィヒの眉間に深い渓谷が刻まれる。
だが、

「これからロヴィーノとデートなんでしょ?」

フランシスが耳元で囁いた瞬間、ボンッと音を立ててルートヴィヒの顔が沸騰した。
「な、なな…」
「お、図星」
ルートヴィヒは口をパクパクしていたが、やがて何も言わずに口を閉じると咳払いをした。
「なーんだ、やっとくっついたの?もぉお兄さん心配してたんだから」
「その話し方は止めろ!それと“やっと”とはなんだ“やっと”とは!」
「え、やっとはやっとだけど?え、まさか皆にばれてないとでも思ってたわけ?」
「なっ…!み、みんな?!」
「そうそう、みーーーんな「フランシス」」
からかい続けるフランシスに声がかかる。
二人がそちらを見ると、いつの間にかフランシスの一つ隣に店のオーナーであるアーサーが腰かけており、経理のノートを開いていた。
「お前、からかってやるなよ。ルートヴィヒも、もう上がっていいぞ」
「えー…」
「あ、あぁ悪いな」
「ん、ロヴィーノの奴が裏でイライラしてたぞ」
「そ、そうか」
ルートヴィヒは戸惑いながらも柔らかく苦笑した。
それを見てフランシスは面白くなさそうな顔をし、アーサーは小さく笑う。
「あとな、お前、まだギルベルトにはロヴィーノの事は言うなよ」
「え、あ、あぁ」
「あいつはお前至上主義者だからな…。恋人が出来たなんていきなり言ったら発狂しちまうぜ」
「発狂ってそんな…」
ルートヴィヒは呆れるが、アーサーは決して言いすぎではないと思っている。
ルートヴィヒの兄であるギルベルトは、ブラコンだと自覚のあるアーサーから見ても度が過ぎている。
弟に恋人が出来たなんてことをギルベルトが知ったら…と思うと、アーサーは恐ろしくてたまらない。
「いいから、とにかく黙っとけよ。言うタイミング誤ったら大変なことになるぞ」
「む…そうか」
「あぁ、じゃぁさっさと上がっちまえ、明日はいつも通りの入りでいいからな」
「えー、かえっちゃうのー?」
フランシスがしつこく引きとめようとするが、アーサーがさっさと行けと手を振るとルートヴィヒは小さく頭を下げてバックヤードへと入って行った。

つまらなそうにルートヴィヒを見送ったフランシスは、しばらくして恨みがましい視線をアーサーに向けた。
「なんで邪魔するんだよ」
「邪魔するだろう、普通」
「ちぇ、俺がルートヴィヒ狙ってたの知ってる癖に」
「バーカ」
アーサーは伝票を何枚もめくりながらノートに数字を書きこんでいく。
「にしても…くっついちまったのかぁ…。」
「みたいだな」
「あいつら二人の初々しい恋愛模様見るの楽しみだったのになぁ」
「今でも充分初々しいだろうが」
「まーね、今までギルベルトに邪魔されてきて恋愛経験ないルートヴィヒと…」
「女の扱いは手馴れてる癖に、同じく恋をしたこと無いロヴィーノだしな」
「可愛いよねぇ」
クスクス笑いながら、フランシスはアーサーが打つ電卓を見、それから立ち上がるとグラスを持ってカウンターの中に入り、それを洗い始めた。
「二人が上手くいったのは嬉しいけど、お兄さんとしてはちょっと寂しいなぁ。なんか可愛い娘を送り出す気分だ」
「どっちが娘だよ」
「そりゃ…どっちも?」
「はは、ロヴィーノはともかくとしてルートヴィヒが娘ってのは想像したくないな」
「そうか?ルートヴィヒだって可愛いだろう」
「ハッ、ギルベルトかよ」
「えー、ギルちゃんとは一緒にしないでよ」
言いながら彼はグラスの水を切り、布巾で丁寧に拭いていく。
「いやぁ…でも、あの二人が俺の手を離れちゃったかと思うと…」
「ウゼー…」
何回同じ事を言うんだと嫌そうな顔をしたアーサーは、右手を素早く動かし計算を終えると、ノートに合計金額を書き入れる。
そしてホッとしたように息をついた。
「どうだった?」
「どうって…ロヴィーノの売上がちっと悪かったな」
「はは、そりゃ仕方ないって彼氏の前で張り切って女の子は口説けないでしょ」
「けどなぁ…」
「大丈夫だって、ロヴィーノもプロなんだから…」
「だな」
あいつはホスト以外に食ってけなさそうだし…。
パタンとノートを閉じたアーサーは、フランシスが自分をじっと見ているのに気づいて眉をピクリと動かした。
「なんだよ」
「なんだよって…ひでぇ」
苦笑するフランシスに、「あぁ」と多少面倒そうにアーサーが言う。
「なんだよ、ルートヴィヒにふられたからって俺に付き合えって?」
「そうそう…って夕飯だけな」
サラリとした会話だが、二人の目にはなにやら剣呑なものが浮かんでいる。
それを互いに覗き込み、ニヤリと笑った。
「んじゃ行くか…」
ノートを抱えてバックヤードに向かうアーサー。
フランシスは店の明かりを落として、アーサーに続いた。

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