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影狼 07

『リク?』
カイは人へと姿を変えた俺が恐ろしいのか、腰が完全にひけている。
『どうしたカイ?』
からかうようにいうと、戸惑ったように目を泳がせた。
『ほんとにリク?』
『あぁ、人に姿を変えてみた。どうだ?』
布を体に巻き付けた俺は、よろよろとしながら二本の足で立ち上がり、そこらをゆっくりと歩き出ながら聞いた。
『どうって…変だよ』
『変か』
俺はくつくつと笑い、
「あ、あー…あいうえお。本日は晴天なり、本日は晴天なり」
人の声帯を使って久しぶりに声を発してみた。
それを聞いて、カイの耳がピクピク動く。
『今のなに?どうやったの?』
「しゃべったんだ。吠えるのとは違う。人は口を使って意思の疎通を行うんだ。カイ、俺の言葉がわかるか?」
『わかるよ。意味はわかんないけど。』
カイは首を傾いで、キャフンと小さく吠えた。
「その姿では話すことはできないだろうな」
『そうか…残念』
カイは少し慣れたのか、引け腰のまま俺のそばによって臭いをかぎだす。俺が頭を撫でてやるとうっとりと目を細めた。調子に乗って耳元をくすぐるとトロンとした目をした。
『変な格好だけど、前足は素敵だね』
「前足じゃなくて“手”だよ。さっ、金目の…キラキラしたものを集めてくれ」

久しぶりの二足歩行はかなり不安定で走ったり飛んだりはまだできそうにない。
足ですらそんな状態だから手は自分でイライラするほどに上手く動かない。
大雑把な動作ならどうにかなるが、細かな動作は震えて動かない。
俺は洋服を着こむと、なかなか言うことをきかない体を叱咤し、袋を見つけて中に金目になりそうな物を次々と放り込んだ。
金そのものはほとんどなかったが、宝石の類がそこそこあった。それから質のよさそうな布に、ナイフに両刃の剣、本が何冊か、鍋、乾燥した胡椒の実の瓶詰めなど。
それから鏡。
少し歪んでいたが、それでも川面に写るものよりはっきりしている。
覗き込んだ俺の姿は、以前の俺の姿に似ていて…だが完全には一致しなかった。
黒い髪、黒い目は同じだが、鏡に写る十代半ばの青年の造形は以前の俺より男前だ。
猛禽類を思わせる鋭い目、筋の通った形のよい鼻、引き締まった薄い唇、シャープな顎。
野性的な男前。
まさに狼のような。
まだガキの癖にこの顔だ。
将来が末恐ろしいと以前の俺なら舌打ちをしただろう。
なんだか気にくわなくて自分の頬をパシンと叩いた。
『どうかした?リク』
「いや、何でもない」
鏡を袋におさめた俺は、大きな二つの袋をバランスをとってカイに背負わせた。
荷物を背負って移動するなんてことは経験がないせいか嫌がったが、きちんと固定してやると妥協してくれた。
俺はというと人の姿のまま、毛布や洋服類を背負い、腰には長物を差した。
狼に戻らないのかと言うカイに俺は首を横にふった。
「しばらくこの姿で過ごして修行をする。」
『ふぅん、俺も人になりたいな』
「それは無理だろう」
俺は苦笑した。
なにも意地悪でいってるんじゃなく、バランサーの性質を考えれば今の彼では出来ないことがわかる。
人をスポイルできるならば、できるかもしれないが。
だが、そこまでの説明は必要なかったようで、カイはすぐに納得し早く巣穴に帰ろうと俺を急かした。

人になったことで俺は簡単な料理ができるようになった。
まぁ、胸を張って料理と言える品ではないが、今までとにかく肉をそのままでしか食って来なかった俺としては塩を振って焼いただけの肉でもご馳走だ。
残念ながらカイは味付けなしの方が美味いらしいが。
しかし原始的な暮らしってのはなかなかに快適だ。
コンビニもテレビも酒もタバコもないが毎日が充実している。
このまま隠居してやりたいなんて思わないこともない。
まぁさすがにそれは冗談だが。
やはり人の意識を持つものとしては人と関わりたい欲求が強い。
そして、それと同じくらいにこの世界を知りたいという欲求がある。



人の姿での修行を初めて三月ほどが過ぎた頃、ようやく人並み程度には体を動かせるようになった。
剣の扱いについてはいまいちだが、それでもなんとか獲物を仕留められるようになると、俺達は狼の獣人たちが暮らしている村に行ってみることにした。
これまでは縄張りが離れている事から特に接触をしたことはなかったが、狼の獣人たちが住む村があることは知っていた。
獣人たちにとって俺達は敵対勢力と見られるのか、それとも下等な…家畜に等しいものと見られるのかは不明だが、戦闘能力でいえば俺たちの方が上であろうから恐れる必要はないだろう。
『その姿でいくの?』
「あぁ。その方が警戒されにくいかもしれないからな」
『村で暮らすつもり?』
「いや、何日かは滞在するかもしれないが長居はしない」
今回の目的はこの世界への知識を深めることだ。
この世界にはどんな種族がいるのか、世界の形はどんな風なのか、国はあるのか、あるとすればどのような経済活動を行っているのか、宗教活動はあるのか…。
人の世界に出るための第一歩だ。
生まれ落ちてから二年。
ずいぶんと悠長と思われるかもしれないが、全くなんの知識もないままに世間にでてゆくほど俺は無防備ではない。特に魔法やモンスターなんかが存在している世界に置いては。
このタイミングくらいでちょうどいい。
村はカイにとってはつまらないかもしれないが、彼を一匹で生活させるにはまだ不安がある。
将来的に俺が森を出る時には、彼が望めばもちろん連れていく予定だが…彼にとっては森で暮らすことの方が幸せかもしれない。

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