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何年たっても

ホテルの喫煙室で一人煙草をくねらせていると、ドイツが書類を持って入ってきた。
彼は落としがちだった視線を上げ、俺を捉えると「少し聞きたいことがあるんだが…」と、半ば決まり文句ともなったセリフを口にした。
それには少しうんざりしたんだが、ドイツって男はどこまでも頭が固いヤツだ。
仕方なく「いいよ」とため息をつくように煙を吐いた。
ドイツは「悪いな」と一言添えて近づき…それからハッとしたように俺に目を合わせた。
「ん?何?忘れ物でもした?」
「違う。忘れて吐いたが…どちらかというと思い出したというか…」
「は?」
要領を得ない言葉に首を傾ぐと、彼は「それだ」と指に挟んだ煙草を指さした。
「煙草?」
「煙草というか…正確に言えば、ゴロワーズか」
「ん?」
俺は自分の吸っているゴロワーズをまじまじと見つめ、彼の言葉の意味に気づいて「あぁ」と言った。
この煙草にはいろいろと歴史がある。
それこそ俺やドイツの歴史と重なるように、この煙草もまた時を重ねてきた。
「吸うか?」
「いや……一本もらおう」
彼はぎこちない手つきで一本を受け取り、口に咥えた。
それに火をつけてやると、少し咳き込みながらもゆっくりと煙を吐き出した。
「なんだよ、その初心者みたいな吸い方」
「仕方が無いだろう。久しぶりなんだ」
ドイツは拗ねたように言って、なんだか年寄り染みた顔をしながら小さく笑った。
「スケベ」
「なっ…ッ!」
「なんか昔のこと思い出してただろ」
ニヤリとすると、彼は眉間にぐぐっとシワを寄せて小さく頷いた。
だけど…仕事の時ならまだしも、こんな時の彼はちっとも怖くない。
「いい思い出か?」
「いや、どちらかというと悪い思い出だな…」
そう言って彼は俺から目を離し遠い目をした。
そして長い沈黙の後、「あの頃は…」とゆっくりと口を開いた。
「軍の支給品とロシア製、それからフランス製が出回っていて、一番評判がよかったのがそのゴロワーズだった」
あの頃とやらがいつのなのか、彼は具体的には言わなかったが、俺にはわかった。
「あぁ」
あの頃…あの地獄のような、血で血を洗う戦争の頃。
いつの間にか、煙草を持つドイツの手つきが変わっている。
先程までの素人じみた吸い方ではなく…長年愛飲しているかのような…そんな手慣れた吸い方だ。
「特にロシア製は粗悪品で…兄さんは嫌がっていた」
「あいつは、あの頃チェーンスモーカーだったからな」
「あぁ…そうだな」
ドイツは一本を吸い終わると、名残惜しげな顔をして灰皿に煙草を押し付けた。
「もう一本いるか?」
「…いや、やめておく」
彼は少し間を置いて断った。
そして胸の中に残った煙をすべて押し出すように大きく息を吐いた。
横顔には疲れが見える。だけど、どこかスッキリとしているようにも見える。
ゴロワーズにはいい思い出よりも悪い思い出の方が多いはずだが、それでも吸ったこの時に浮かんで来たものはそれほど悪い思い出ではなかったようだ。
「フランス」
「あぁ、わかってるよ」
感傷モードを振り払ったらしいドイツに了解し、煙草をもみ消すとドイツに近寄り彼の示す書類に目を落とした。

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