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影狼

転生もの

目を覚ました時、俺は自分の何もかもが変わっている事に気づいた。
ついさっきまでは大学でせっせこ仕事をしていたような気がするのに、今は敷き詰められた柔らかな枯れ草の上に横になり、兄弟と共に母親に抱かれている。
それだけでも混乱するというのに、この母と兄弟、ついでに自分は犬…いや、狼の姿なのだ!それも母親ときたら頭にバカがつくほどにでかく、成人男性が背中で寝転がれるほどだ。
こんな動物、地球上にいるわけがない!
一体これはなんなんだ?
あまりにもバカらしい状況に俺は頭がくらくらして、母親のばかでかい舌に全身をなめられながら気絶した。



次に目を覚ました時には見慣れたベッドの上で、あぁおかしな夢を見てしまった…て展開を期待したんだが、残念ながらまだ俺はあのでかい母親に抱かれていた。
よくよく見てもやはりでかい。
白い子犬みたいな兄弟は、そろって母親の腹を探ってミルクを飲んでいるらしい。
ちなみに兄弟は二匹でどちらも白、母親も白で目はみんな金色。だが俺の毛は黒くて腹と足の先っぽが白い。おそらく父親に似たのだろう。
父親の姿は無いが、それは母親が一匹で子育てを担当するからかもしれない。
そんなことを考えていると、母親が鼻先で俺を腹の辺りへと押しやって来た。
どうやら乳を飲めと催促しているらしい。
正直いって…それはないだろう…。
俺はげんなりした。
牛の乳ならまだしも…狼の乳ってすごい癖があって不味そうな気がするんだが…。
拒否だ拒否…と後ろに下がろうとするが、母親に押し戻されてしまう。
うむ。確かに赤ん坊がミルクを飲まないとなると母親としては心配だろう。
しかし…しかしな…ちょっと抵抗が…。
俺はしばらく葛藤していたが、やがて母親の度重なる催促に屈すると兄弟の横に並んで乳を吸った。
味は…思ったほど悪くはなかった。
ちょっと癖はあるけど、飲むヨーグルトみたいな感じだ。…というか、うまいかもしれない。
まぁ赤ん坊の唯一の食事だし、これが飲めないとなると餓死は必死だしな。
俺は腹が膨れて眠ってしまうまで乳を吸い続けた。



それから数日、俺は腹が減っては母親の乳を飲み、腹が膨れては眠るという生活を続けた。
赤ん坊の体ってのはおかしなもんだ。特にエネルギーを消費した覚えもないのにすぐに腹が減るし眠くなる。
おかげで現状について考える暇もない。
ほらまた眠くなってきた。



そして一週間ほどたっただろうか。
ふと近くに母親がいないことに気づいた。こんな事は前代未聞だ。俺はパニックに陥りそうになった。
子供じゃないんだから…ということなかれ、俺は立派な赤子で精神年齢も引きずられて低くなってるのだ。
母親がそばに居ないと心細くてたまらない。
母さん!母さん!どこにいった!母さん!
大声で叫んだつもりだが、声に出てきたのはキャウンという可愛らしくも情けない声。
それでもキャンキャン吠えていたら、隣でころころ寝ていた兄弟が目を覚まし同じように母親の不在に気づいて鳴き出した。
キャウ~ン、キャンキャウン
俺よりも情けない声に、俺は少し頭が冷えた。
彼女はずっとつきっきりで俺たちについていたんだ。きっと腹を減らして狩りに出掛けたに違いない。
大丈夫。きっとすぐに帰ってくる。
俺たちを捨てたんじゃない。
すっと冷静になると、俺はまだおぼつかない足取りで兄弟たちの元に歩いてゆくと、母親がいつもそうしてくれるようにペロペロと毛をなめてやった。
するとキャンキャン鳴いていた彼らは、やがて大人しくなって眠ってしまった。
全く、世話のやける兄弟だ…なんて、最初にパニックに陥った自分を棚のうえにあげて愚痴ると、体力の限界を感じた俺は兄弟達によりそって眠りに落ちた。



それからまた一週間くらいがたち、ようやく俺は少しずつ起きていることができるようになった。
足も少しずつ強くなってきているのか、巣の中(洞窟?みたいなところに作られている)だけではあるが動きまわることが出来るようになった。
兄弟たちも同じような状態らしく、食事が済んだらよくコロコロ毛玉が絡み合うようにしてじゃれている。(もちろん俺も強制参加だ)
そして母親はやっぱりとんでもなくでかくて面倒見がよく、また一日に一度狩りに出掛けているようだ。
そうしてようやくではあるが、現状を把握しようという余裕が出てきた。

さて、話が始まってずいぶんと経過したが自己紹介を始めよう。
俺の名前は小島陸生(こじまりくお)。
大学に通っていたが、大学生ではなく准教授で38才。専門は経済学で、未来の銀行マンや投資家なんかを育てていた。
趣味は相場予測。
自分でも自覚はあったが仕事一筋の真面目で面白味の無い男。学生にはまずまず人気があったと思う。
つきあった女なら何人もいたが三ヶ月以上続いた経験がなく、当然の未婚。
兄弟は三つ下に妹が一人いたがこちらはバツイチ。現在は二人の子供と一緒に実家に身を寄せている。
両親は健在。マンションを持っているので、入居者からの家賃収入で悠々自適の生活。
…まぁ、いまさらそんなことはいいか。
とにかく(あまり認めたく無いが)准教授であった俺は死んでしまったらしい。
多分、過労死かなにかだろう。いわゆる突然死。
三つも論文を抱えていて、連日連夜徹夜で家にも帰れていなかったから、多分死因はそんなところだろう。
っで、現状だが…あー多分『転生』と言われるやつではないかと予想している。
俺自身は無神論者で、生まれ変わりどころか魂の存在すら信じてなかった。生まれ変わりや転生なんて論外だ。
だが…こう身を持って体験してしまうと一笑に伏すなんて出来ない。神の思し召しだかなんだかは知らないが、これが真実、これこそが事実だ。
まぁ、なぜ前世(?)の記憶がきれいに残っているのかは謎だが。
とにかく俺は狼として生まれ変わった。
小島陸生はもういない。

これからは狼としての『リク』の生活が始まる。

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