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012 小さな痛み

ローザの話 読み返さない

立ち寄った村で若い男たちとくだらないことで笑い合っていたエッジはふと視線を感じた。
振り返ると…ローザだ。
彼女は買い求めた食材の入った籠を持って、借り受けた家に戻るところらしい。
彼女はすぐに視線をそらしてしまったが、彼女の眼差しに引っかかるものを感じたエッジは男たちに別れを告げて彼女を追った。

現在彼らが滞在しているのは、先程も言ったように借家だ。
2年ほど前までは木こりがひとりで住んでいたらしいそこは、家を出た娘さんが時々手を入れていたらしく思ったよりは綺麗だった。
エッジが借家の裏口から入ると、ローザは台所で野菜を洗っていた。
その横顔に影が落ちているのを見てエッジは首をかしげた。
彼女のこんなにも暗い顔は珍しい。
「具合でも悪いのか?」
と口を開くと、エッジが来たことに気づいていなかったらしいローザはビクリと肩を跳ねさせ、扉口の方を見てホッと息をついた。
「エッジ…」
「おう。で、具合でも悪いのか?」
「え?そんなことないわ」
そう言ってほほえむローザだが、少々鈍いところのあるエッジにも彼女の表情に無理があることがわかった。
「おまえなぁ…医者の不養生…じゃなくて白魔道士の不養生っていうか…」
「あぁ、本当に何でもないのよ」
「そんな顔じゃねぇだろうが」
少しムッとしたように言うエッジにローザは苦笑した。
「本当に具合が悪いとかじゃないのよ。ただ…ただ、ちょっと羨ましいなって思っただけ」
「羨ましい?」
「そう」
そう言って彼女は濡れていた手を付近で拭いた。

 *
「ローザが俺のことを羨ましいって」

エッジの言葉にセシルは目を落としていた本から顔を上げ、不思議そうな顔をした後、「あぁ」と言った。
「かもね」
「かもって…分かるのか?彼女が俺の何を羨んだか」
「わかるよ。友達でしょう?」
セシルが返すと、エッジは驚いたように目を見開いた。
「彼女、昔から友達がいないからね。仕方ないよ」
「嘘だろ?だってあいつめちゃくちゃ知り合い多いだろう?」
バロンに立ち寄ったときの人気なんて半端じゃなかった。
門の口に立っていた兵士から、若い男女、子供、店番をしていた輩…次々に話しかけられていて…
「あれは知り合いで、友達じゃないし」
「知り合いって…」
「さっきも言ったけど、彼女って昔から友達いないから。本人は作りたくて努力してるみたいだけど」
意味がわからないとエッジは首をかしげた。
「でも、彼女誰にでも好かれるし…」
「だけど、友達はいなかったんだよ」
セシルは苦笑する。
「誰とでもすぐに友達になっちゃうエッジには分かりにくいかもしれないけれど、彼女は友達を作るのが苦手…ううん、向こうのほうが、逆に向こうが勝手に壁が有るものだと思って近づいてこないというか…」
「わからねぇ」
「んー…つまり…なんというか」
上手い例えが見つけられずにセシルは唸り、やがて「シスターとか」と口を開いた。
「シスター?」
「そう、シスターって誰にでも好かれるよね。子供たちにも慕われるし、町の人達にも慕われてる。だけど、友達になろうって人はすくないじゃない?」
「そうなのか?」
エッジは首をかしげた。
エッジの祖国であるエブラーナでは、宗教という概念が希薄であり、バロンにある教会や神父・シスターという存在はしっていても、それが町の人達にとってどのような存在であるかはしらない。
セシルはもう少し考え「祭祀?」と今度は言った。
「今度は祭祀?」
「そうそう、ちょっと感じが違う気がするけど…まぁ、祭祀とお友達になりましょうなんて人は少ないでしょう?仲良く…というか、慕う人は多いかもしれないけど」
祭祀と聞いて、祭りの時にかがり火の前で舞う恐ろしい木の面を付けた白装束の男を思い浮かべたエッジだが、セシルの説明を聞いて「あぁ、巫女のことか」と自分なりに解釈した。
彼の国には先程も言ったように宗教というようなものはきちんとした形をもっていない。
だが、漠然とした万物…山や川、木や風といったものに対する信仰があり、それぞれに宿る神々を讃え祭っている。
バロンの国教のように『教え』はないが、エブラーナでは神々に対する信仰はあり、それらの中心が祭祀でありそれに使える巫女だ。
教会における神父やシスターとは少し違うが、シスターに一番近いのは巫女だ。
「たしかに巫女さんは神聖すぎてナンパはしづらいな」
少し論点がズレている気がするが、セシルは「そうだね」と苦笑するだけで訂正はしなかった。
「あー、つまりあれか。お高く止まってるんだな?」
「お高く…?」
エッジの巫女に対する認識がよくわからなかったが、そんなものかなとセシルは曖昧に頷いた。
「お高くとまっているというか…」
「あぁ、そう認識されているわけだ」
「まぁそんなところかな」
「昔からか?」
「そうだね。ローザって本当に友達いないんだよね」
さらっといってのけるセシルにエッジは微妙な顔をする。
「あ、でも仲間はずれなわけじゃない。ちゃんと話すひともいるし、勝手によってもくる。後輩には慕われ、年上には可愛がられ、同い年の人たちには頼られてる。」
「けど、友達がいないのか」
「そうだね」
「それで羨ましいか…」
「特に同性の友人に飢えてるみたいだね」
「でも今はリディアがいるだろう?」
同じ女ということで二人してよく一緒にいることを知っているエッジが言うと、セシルは曖昧に首を横に振った。
「と思いたいんだけど、リディアも…ほらちょっと難しい子だから壁を感じてるみたいだね」
「そうなのか?」
誰にでも愛想がよく、どんなに壁が厚くてもするりと中に入り込んでしまうような所のあるエッジにはやはりよくわからなかった。
彼にしてみればリディアはちょっとばっかし気の強い可愛い女の子で、ローザは少し近寄り難いが優しくて頼りがいのある美女。壁など感じたことすらなかった。
「エッジらしいよ」
「そう…か?」
「うん。だからさ、今度ローザを見かけたら、遊びに誘ってあげてよ」
「あぁ…」
いいぜっと言いかけて彼はセシルを見た。
戦いのさなか…恋人同士という関係をセシルとローザは封印しているようではあるが…思いの通じ合った男女であったはずだ。
その片割れが…自分の彼女を他の男に任せるなんてことを言っていいものなのだろうか?
そんな彼の考えがセシルにもわかったのだろう、彼は苦く笑って一つ頷いた。
「お願いね」
彼の言語に何か事情があるのだろうな…と思いながらも、エッジはわかったと返すことしか出来なかった。

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