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夜明け 07

ごめんなさい 読み返してません。
ジンに教えられた目印を辿っていくと糸車亭はまもなく見つかった。
来てみれば、一度、エンリに連れられて来たことのある場所であった。
大衆的な酒場はこの時間、大いに賑わっている。
窓からはオレンジ色の光が溢れ、喧騒が外まで漏れ聞こえる。

竜騎士の人達が居たら嫌だな…と、ウルシラは思った。
彼らが暗黒騎士団団長の侍従になにをするとも思わなかったが、暗黒騎士団の関係者と分かるだけで賑やかな雰囲気に水をさしてしまうような気がした。
ウルシラは入り口の辺りからそっと中を窺った。
見る限りでは、街で昼間は働いているような(パン屋や鍛冶屋等)男たちばかりのようだ。
ウルシラは気配を消して、猫のようにそっと壁際を歩いて奥へとすすんだ。

なにやら頭を寄せ合ってひそひそとやる男たち、カードゲームに興じる客、酔っぱらってテーブルに突っ伏した男、テーブルを縫って歩く若い女、壁際でヴァイオリンを引く男。
湯気を立て、食欲を誘う香りを立てた温かな料理、赤い酒に、泡立つ黄金の酒。
怒号と哄笑、食器のぶつかる音に、誰かがドンっとテーブルに拳を打つ音。
何処までもにぎやかで騒々しく、楽天的で楽しげだ。

その光景は、故国の建国記念の際の宴を思わせてウルシラの心をシクシクと締め付けた。
あれはまだ子供ウルシラと兄が子供だったころ。盛大に催された建国記念の宴。
子供だからという理由で宴の途中から退席させられたのだが、あとから兄と二人で宴の席を扉の隙間からそっと覗いたことがあった。
するといつもは気むずかしい大臣が赤ら顔で笑っており、硬派で知られる騎士団長が細君の腰を抱いていた。従姉のアウラが婚約者と踊り、アウラの母親とウルシラの母は二人でその光景を見ながら幸せそうに談笑していた。異国から道化が呼ばれて場を盛り上がらせ、ウルシラの父王も宰相と一緒に手を叩いて笑っていた。

もう、過去のこと。
決して戻らぬ過去のこと。
楽しくも悲しい思い出。


「すみません。エンリふ・・エンリの使いで来たんですが」
恰幅のよい、一目でジンが言っていた人物だとわかる女性を捕まえてウルシラが言うと、女将(と思われる女性)は彼の頭のてっぺんからつま先までをじっくりと品定めでもするように見つめ、それからニコリと相好を崩した。
「あぁ、聞いてるよ。裏に置いてるからついといで」
彼女は先に立ってカウンターの中、厨房の方へと入っていった。
ウルシラがついていくと、彼女は厨房を横切り裏口から外に出た。そしてそこに置いてある樽を指し「これだね」と言う。
そこには大きな酒樽が3つ山になっていた。
「これ、全部・・・ですか?」
驚いてウルシラが言うと、彼女はもちろんだというように頷いた。
「注文は3樽。間違いないよ。おかねは持ってきてるね?」
「はい」
3樽も・・・どうやって持って帰ろう?
そんなことを思いながら、ウルシラはジンからもらった革袋をそのまま女将に渡した。
女将はそれを手のひらに開け「ちょっと多いね」と言いながら勘定を数える。
そして、
「はい、釣りは袋に戻しておいたからね」
と、ウルシラに革袋を返した。そこで彼女は樽をどうしようかと考えているウルシラに気付くと、「あぁ」と言った。
「大丈夫。あんたにそれを抱えて行けなんてひどい事はいわないさ。ほら、向こうの通りを見てごらん」
彼女が言った方を見ると、そこには台車が置いてあった。
「あれを使いな。ミルク配達用のものだけど、夜は使わないからね。自由に使っていい事になってるのさ。ただし、明日の朝の配達には使うものだから、使い終わったらすぐにもどしてくれよ」
「はい、わかりました。」
ありがとうございます・・・と頭を下げると、彼女はにこにこと笑いながら「えらいね」とウルシラの頭をやや乱暴に撫でた。
まるきり子供の扱いだがウルシラはそれほど悪い気はしなかった。

まもなく女将が店に帰っていくと、ウルシラは通りを渡って台車の所へと歩いた。
そしてそのまま台車を引こうとしたが・・・しかし、びくとも動かない。首をひねりながら車輪を見ると、石がかませてあることに気づいた。
ウルシラはその石を足で外し、台車を引いて糸車亭裏の樽の傍へとつけた。
ふと見ると台車の中には何故か数冊の本が置かれている。
「本?」
何故こんなところに?っとウルシラが台車の中に手を伸ばしたその時・・・背後でザッと音がした。
何かと思って振り向こうとしたウルシラの頭にガッと何か硬いものが叩きつけられ・・・ウルシラはそのままぐったりと台車にもたれるようにして気を失った。

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