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暗黒騎士 27

中身が無いわりに長い。
その日、彼らが揃って工場に姿を現した途端、作業をしていた者たちは目に見えて狼狽し落ち着きをなくしてしまった。
それでもしばらくは何とか作業を続けようとはしたのだが、仕事に対する意欲・集中力はどん底まで落ち・・・結局、シドはいつもよりも4時間も前に今日の仕事を切り上げることを宣言するはめになった。
シドは立腹したが・・・此処で無理に仕事を続けさせても大きな事故につながる可能性が高くなるばかりで、効率は良くならないというのは目に見えていると助手に宥められ、しぶしぶながら一応の落ち着きを取り戻した。

「悪かったね。シド」
そう困った顔を見せたのは、彼ら、暗黒騎士団を率いてやってきたセシルだ。
「本当は僕とエンリだけのはずだったんだけどね」
と、セシルは建造中の巨大飛空艇と、それを思い思いに見上げたり、よじ登ったりしている団員達を見た。好き勝手をする彼らを諌めるのはエンリの役目で、さっきから声を張り上げっぱなしであり、広い工場内でワンワンと彼の声が響いている。
「全く・・・!暗黒騎士団のやつらがこんなに野次馬根性のあるヤツラだとは思ってもみなかったぞ!」
「それは・・・うん」
セシルは苦笑しながらもそれを認めた。
「他のことなら大抵は無視するでしょうが・・・流石に旗艦船になると聞けば興味があったのかもしれません」
「ふん、なんじゃ、わしが作る船が欠陥品だとでも言いたいのか!」
「そんなにかみつくことはないでしょう。親方」
いきり立つシドの肩に手をやって笑ったのは、彼の弟子であり助手でもあるジェフだ。
ジェフは大柄な上に体格もいい。比較的背の高いセシルですら見上げるほどの男なので、シドなどは彼が隣に立つと子供のように小さく見えてしまう。
「いいじゃないですか。暗黒騎士団がそろって見学にやってくるなんて、そうそうあることじゃないですよ」
「ふん。だったらジェフ、お前が彼らの面倒を見てやるこったな!わしはご免だからな!」
「な、何を言うんですか・・・!」
ぎょっとするジェフだが、シドはどこまでも本気のようで既に出口の方に歩きだしている。
「全く!今日はせっかくエンジンテストをやろうと思っておったのに・・・!お前らのせいでだいなしじゃ!腹いせに家でたっぷりと飲まなきゃならない!!!まったく、とんでもない迷惑だ!いいか!ジェフ、ちゃんとその黒い奴らを見はっておれよ!絶対に船体を汚れさせないように!壊されないように!ちゃーーーんとみはっとくんだぞ!!!!!」
「あ、ちょっと・・・!おやか・・・・」
ジェフが言い終えないうちに、シドは扉を思いっきり叩きつけるようにして工場を出て行ってしまった。
シドを呼びとめるように手を出していたジェフは、その手をむなしく下げると大きくため息をつきセシルを見た。
「すみません。親方のやつが・・・」
「いや・・こちらこそすまなかったね。彼らが勝手についてきちゃって・・・」
「いえ。まぁ、彼らが気になるのもわかりますしね」
はははっと笑うジェフは、少々気難しいところのあるシドと作業員たちを取り持っているだけあって、人間的にとても優れた素質を持っていて恐縮気味のセシルに何のかんのと話しかけては彼の気持ちを和らげる。そして、船についてのことを事細かくセシルに説明していった。

一方大変なのはエンリだ。
事、戦いにおいては他の追随を許さない歴戦の勇士たちであるのだが・・・その他については、ただの悪がきでしかない彼らをまとめるのは本当に大変なのである。
黙って船を見上げているだけの奴はまだいいとしても、ほっとくと船の強度をたしかめようと剣を抜くやつだとか、ロープを引っ張ってみるやつだとか、勝手にオイルを取り出してそれをこぼしてみたりだとか・・・本当に好き勝手をするのだ。彼らは。
「おい!ジン!そんなところに上るな!」
「そこ!台車で遊ぶな!元の場所に戻せ!」
「バカ野郎!勝手にいじるんじゃない!」
「コラァ!何やってる!!!!!いい加減にしろ!!!」
どんどんヒートアップするエンリを、どうやら彼らは面白がっている節がある。
暗黒騎士団の面々は超個人主義であることを考えれば、エンリはある意味特別だ。
愛されているといえば愛されているのかもしれないが、やはり所詮は“おもちゃ”だろう。
救いはそれをエンリが気付いていないということか。
「こら!勝手にそんなものを持ち出すな!!!!」
彼はまじめでお人よし。
彼は幼稚園の先生のように(言葉は少々荒いし、時々手もあげるが)ひたすら辛抱強く彼らを諭す。
彼らがわざと彼を怒らせるようなことをしているとは思ってもいない。
足をふみならし、どなり散らし、拳を振りまわし、顔を真っ赤にさせて怒鳴るエンリ。
だが、それでもセシルに言わせると、“団員はよくエンリの言うことを聞いている”ということになる。

「で・・・あっちのアレが、その上につくことになります。」
「大きいですね」
「えぇ。親方が直前になって30センチ高くしたんですよ。俺は元のままでもよかったと思ってたんですが・・・よく考えると、それで浮力が少しばかり稼げるんですよね」
「重くなるのに?」
「えぇ。それでもです。まぁ数学的なことをいうとちょっと長くなるんですが・・・」
ジェフが言い淀むと、セシルは分かっているというように微笑んだ。
「えぇ。あなたもシドのことも僕は信頼していますから」
「そう言っていただけるとありがたいですね。えぇ・・っとそれから・・・」
ジェフは欄干のことや、竜骨について、また主砲についてなどを事細かに説明していく。
彼の説明はとても理論的でわかりやすい。セシルが時折挟む質問にも、全くよどみなく答える。さすがシドの助手だな・・・とセシルが内心感心していると・・・
「あー・・・」
途中で、ちょっと困った顔をして、肩をすくめた。
「そろそろいいですか?」
そしてセシルから顔を空した。
セシルがその視線を追うと・・・そこには未だに騎士たちを怒鳴りつけているエンリの姿。
それでセシルは彼の言いたいことを理解し苦笑した。
「すみませんね・・・すぐ言ってやめさせるんで」
「こっちこそ・・・すみません。出来栄えをチェックしたいという気持ちはわかるので・・・」
「さっさと降りてこい!ジン!!!!!」
ジェフの言葉にエンリの声が重なる。
二人がハッとしてエンリの声が向けられた方を見ると、マストの上で仁王立ちしている男が居る。
「さすが・・・バランスがいいですね」
ジェフが微妙な顔をして言う。
「ほんとに・・・すみません。すぐにやめさせますから・・・」
ちょこんと頭を下げたセシルが、
「エンリ!」
少しだけ声を張り上げて副官を呼ぶ。
たったそれだけ。
たったそれだけで、空気が変わった。
シンと静まり変える工場内。
エンリがセシルを振り返ると同時に、好き勝手していた騎士たちが動きをとめエンリの元へと集まり始め、マストの上に登っていたジンも豹のように身軽に地上に降り立った。
「なんですか?」
「あぁ、そろそろ迷惑になるから帰ろうかとおもって」
「そうですね」
エンリが頷き、もう一度船の方を振り返った時には、わらわらと騎士たちが集まってくるところだった。
今までの反抗的な態度はなんだったのかというような素直な態度だがエンリは驚かない。
彼が目だけでその人数をチェックしている間、セシルがジェフに世話になったことへの礼を口にする。それになんとか言葉を返しながらも、ジェフは一瞬にしてその態度を激変させた騎士たちのことが気になって仕方がない。
暗黒騎士というものがどういうものか話には聞いていたが・・・まさかここまでとは思わなかった。
素晴らしい統率力、セシルに対する忠誠心。
だが、ジェフは感心すると同時に、他の人間がそれを揶揄って “狗” と言うのも判る気がした。
「どうかしましたか?」
「あ・・・いや。話が途中だったから大丈夫かと・・・」
「あぁ、そうでしたね。では、また後ほど・・・こんどは一人で来ることにします」
数が揃ったのかエンリが一つ頷き、手をさっと振る。・・・と、男たちは歩き出す。その騎士たちが決まって未練たっぷりにセシルを一瞥していくのに気づいてジェフは呆れた。
セシルはそんな彼をちらっと見た後、エンリに向かって頷き、
「それじゃぁ失礼します」
彼らの後について工場を出て行った。

バタン・・・と扉の閉まる音に続いて、本当に工場内がシンと静まり返った。
ジェフはなんとなく眉間に皺をよせ・・・
「なんだろうか・・・この恋人たちにあてられたような気分は・・・」
ブツブツ言いながら唸った。

ゴジラのテーマもゆる。
ラデツキー行進曲
美しき青きドナウ

長い、長いよ!

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