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暗黒騎士 23

地下へと続く階段はかび臭く湿度が高く石畳はいつもしっとりと濡れている。
エンリが「足元に気を付けてくださいね」と一言注意するのに一つ頷き、足を踏み出したセシルはそこでふと気付いて背後を振り返った。
彼の後ろには少年兵・・・セシルの小姓をしているウルシラが続いていた。
「ウルシラ、君はここまででいいよ」
そう、セシルが声をかけると、ウルシラは顔を上げ彼を見た。その目には不満がありありと出ていてセシルは思わず苦笑してしまった。
「別に君が敵国の皇子であるということが原因ではないよ。」
そうフォローするが彼の表情は変わらなかった。
「ここで待っています」
ぶっきらぼうにそれだけを言って扉の所でセシル達に背を向けて立つ。
セシルがエンリに向き直ると、半身になってその様子を見ていたエンリは肩をすくめてみせた。

「なつきませんね」
「そうだね。まぁ積極的に仲良くしましょう・・・なーんてことは言えないけれどね」
「まぁ、そりゃそうですね」
何せウルシラにとってこの国は将来打ち倒すべき国であり、またセシルに至っては自分の兄を目の前で殺した殺戮者でもある。
「だけど、もう少し可愛げがあってもいいと思いますけどね」
「そう?十分可愛いと思うけど」
「そうですか?」
「そうだよ。エンリだって“だから”気にかけてくれてるんでしょ?」
セシルが含み笑いを堪えるように言うと、先導していたエンリは小さく舌打ちをした。
「知ってたんですか?」
「もちろんね。だからこそ、ジンを傍につけたというのもあるし」
ウルシラの世話を面倒みのよいエンリではなく、粗暴な暗黒騎士であるジンに任せたのは、無論エンリが副官として多忙を極めているということもあるが、距離を少し置かせることによって逆にエンリから見えてくる部分もあるだろうと踏んだからである。
エンリという男は世話好きで頼りにはなるが、反面、入れ込みすぎるという部分があり、そのことをセシルは考慮したのだ。
セシルの言葉からそのニュアンスをかぎ取ったエンリは、なんともコメントしようがなく「そうですね」とだけ言ってあとは何も言わなかった。

「ここです」
そしてエンリがセシルに案内したのは、昨夜、市街において死蝶を放った張本人である。
彼はセシルと二人の暗黒騎士によって捕らえられ、牢に閉じ込められている。
二人が門の前に立つと、すぐそばにいた看守が敬礼をし、それから扉を開け二人を中に入れた。
中は一段と湿気が強く、またカビの臭いと血の匂いが混じり合い鼻につんとくるような嫌な臭いが充満しており、エンリは思わず顔をしかめた。
狭い部屋の中には左に質素なベッドがあるきりで他には何もない。便所は左奥の隅に設けられた穴がその役割を負っている。
昨夜の男(犯人は男だった)は、正面壁に腕を高く鎖で持ち上げられるようにして膝をついていた。服は元の色が何色をしていたのか分からないほどに汚され、ボロボロになっており、彼の肌には重油のような血と汗と泥水で汚く汚れている。
体はずんぐりむっくりとしており、年齢は30代とも60代とも見えて不詳である。
彼らが入っても何の反応も示さないのは、彼がその姿勢で眠っているからか、それとも気絶しているからか。

セシルは看守に命じてバケツに水を汲んでくるようにと頼み、それが届くと何の躊躇もなく男に向かってその中身をあけた。
男はそのとたんに激しくせき込み、苦しそうに顔を上げた。
波打つ黒い髪を張りつかせた男の顔は、その服装に相応しくひどいものだった。
「やり過ぎだ」
エンリが言うのにセシルは胸の内だけで同意した。
確かに“やり過ぎ”だ。
昨晩セシルや暗黒騎士二人にもさんざんなぶられ酷い手傷を負っていた男だが、それよりも今はまた数段痛めつけられている。
おそらくこの牢番達がやったのだろうがセシルにはそれを責める言葉はない。
エンリに渡された棒を持って彼は男の顎を持ち上げ、顔を自分に向けさせる。
男はゼイゼイと肺を言わせながら、黒ぐろとした目でセシルをにらんだ。

「名は」
「・・・・・」
「国はどこのものだ」
「・・・・・」
「昨夜の騒ぎの意図はなんだ」
「・・・・・」
男は何も答えずギラギラとした目でセシルを見ている。
セシルは侮蔑をこめた眼で彼を見下ろし、それから付き添っていた看守の方を見てその答えを求めた。
鉄兜をかぶった看守はセシルの求めに恐縮したように首を横に振る。
つまり、男は何一つとして口を割らなかったということだろう。
続いてエンリを見ると、彼は不快な表情を隠そうともせず眉を潜め、セシルに気づくと処置なしというように首を振った。
「ここで吐いておいた方がお前のためだと思うが?・・・ここの看守ほど、われわれの尋問は生易しいものではないぞ」
「お前は・・・昨晩の暗黒騎士か」
男は重々しいしゃがれた声で言った。セシルはそれに頷く。
「そうだ。バロン帝国暗黒騎士団団長、セシル=ハーヴィ」
「・・・セシル・・・ハーヴィ・・・・」
男はゴロゴロというような不気味な声で言うと・・・途端に爆発的な声で笑い声を上げた。
「うははははは、わははははははは!!!」
「な・・・なんだ」
「おい、貴様静かにしろ!!!!」
狂人じみた男の声にエンリと看守が慌てる。セシルが目を細め男を見ると、男はふいに笑いをおさめ
「貴様が・・・貴様がセシル=ハーヴィか!!!!我が主君、ベネクト王の恨み!今こそ晴らしてやる!!!!!」
男はギンと歯を食いしばると、拳を握りしめ太い腕に血管を浮き上がらせると、どのような手段を持ってかその鎖を引きちぎった。
そして、
「覚悟オォォォォ!!!!!」
男は大口を開けてセシルへと肉薄した。
「団長!!!!!!」
悲鳴のような声を上げるエンリ、その彼をセシルは腕で制する。
そして、セシルは冷静に男の動きを読み、ふっと体を下へと下げると男のみぞおちのあたりに容赦のない一撃を入れた。
「ぐぁっ!!!!」
男の口から唾が飛ぶ。セシルはそれを避けるように立ち上がり、次は頚椎に・・・今度は死なぬように多少手加減をして手刀を振り下ろした。
「ぐがっ」という異様な声を出してその場にドゥっと倒れる男。
一瞬のことであったが、エンリと看守にはひどく長い時間があったように思えた。
いまだ唖然と二人がしている中、セシルは倒れた男の傍に素早くかがみ込み口の中をあらため・・・それから慌てて今度は男を仰向けにし、その首筋に手を当て、それから瞳孔を見た。
体をビクンっと大きく一つ動かした男は・・・すぐに動かなくなる。
「殺してしまいましたか・・・」
エンリの沈んだ声にセシルは頷く。
「死んだ。だけど、僕が殺したわけじゃない。毒で死んだんだ」
「毒・・・?」
不思議そうな顔をするエンリにセシルは一つ頷き、状況を説明する。
「奥歯に毒が仕込んであったようだ。おそらく僕に噛みつきその毒を僕に盛るつもりだったのだろう。」
それは同時に自分の死をも意味するものだったが・・・彼はそれを覚悟していたのだろうと言うと、エンリは厳しい顔になり頷いた。
「なるほど・・・立派な覚悟といいたいところですが・・・我々からすれば迷惑な話ですね」
「あぁ。しかし彼は主君の名を残している。そこからたどれるかもしれない・・・」
「どうせ知らぬ存ぜぬに決まってますよ」
「まぁ、そうかもしれないけど・・・・」
セシルは立ち上がり、看守の方を向くと毒の種類の特定と、男の始末を頼み牢を出た。

牢屋の並ぶ廊下を歩く二人。
「やはり彼は待たせておいて正解でしたね」というエンリの声をセシルは聞こえないふりをした。

刑吏という言葉を使いたかったがいまいち定義が分からない。看守に変更
あと、シールケよりも絶対ロシーヌの方がいいと思う。

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