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竜騎士 6

ストレートな話だ!断じて!
靴屋のポッチに娘ができようが、パン屋に倅ができようが・・・少し前なら特別に親しい間柄でもない限り、そりゃめでたいの一言でで済ませていたし、済ませられた。
しかし、竜騎士団の中でももっとも名高い青竜騎士の団長というポジションに付き、そして武勲を立てるうちにそうも言っていられなくなった。
いや、子どもの誕生というものは喜ばしいし、富国強兵、バロン繁栄を考えてもとてもおめでたいことだということは変わらない。
ただ、手放しで・・・というわけにはいかなくなった。
っというのも、生まれた子供の祝福に来てくれだの、洗礼式に出席してくれだの、名付け親になってくれだの・・・・そういった話があちこちからやってくるわけだ。(ちなみに結婚式だのというものには白魔導士の方が人気があり、子供の名付け親ってはなしも俺に話が回ってくるものは殆どが男の子が誕生した場合に限られる)
最初のころはそりゃぁ張り切ったものだが、何人も子供ができる(これはもちろん、本当の子供という意味じゃなくて、名づけ親としての子供だ)内にだんだん煩わしくなってきた。
同僚の隊長格のものたちの中には、酒をかっくらうためだけに洗礼式に出席したり、適当に名簿を引いて名前を与えたりしているものもいるらしいが、俺は性格的にそういうことが出来ない。
一言に名付け親になるといっても、その家の家計を調べさせたり、神話などから適当な言葉を引いてきたり、過去の英雄たちになぞらえたり・・・となかなか大変な作業だし、洗礼や祝福については早朝のうちからいろいろと準備が必要になってくる。そして、そのさいに贈る言葉となれば言わずもがなだろう。
だからといって『面倒』の一言でうっちゃるわけにもいかないわけで・・・。

ふぅ・・・っと、古い書物をめくっている手を休めてため息をつくと、正面に座っていた副長のサッズがそれに気づいて苦笑した。
副長のサッズは浅黒い肌をした黒い豹を思わせるような男で歳は俺と変わらない。そして言うまでもないが非常に優秀な男だ。多少口は悪いが。
「何かいい引用文はありましたか?」
「・・・あぁ・・・まぁ、英雄シスローの言葉を使おうかと・・・」
「シスローですか。でも、彼、最後は反逆者として打ち首になってますよね」
「・・・それが問題だ」
若いころは英雄とはやされた彼で、その華々しい全盛期は誰しもが憧れるところだが・・・晩年は酒と女に溺れて堕落の一途をたどり、最後にはサッズが言った通り打ち首となって城下にさらされている。
あまり祝福の言葉の引用には縁起がいいとは言えない・・・かもしれない。っというか縁起よくないだろう。
「あぁ。面倒だっ。」
はき捨ててこわばった体をググッと伸ばすと、背中の骨がバキバキと小気味の良い音を立てた。
他の者の前では決して口にしない言葉だが、彼の前では別だ。副長相手にでもガス抜きをしないとやっていられない。
「春だからというのではないだろうが、今月はやけにこういったことが多いようなきがする」
「そうですね。近頃は本当にここ(書物庫)に閉じこもっている気がしますね」
「悪かったよ。手伝わせて」
「本当に」
こういうとき、セシルの副長であるエンリならば“そんなことはありませんよ”なんて笑顔で言ってくれるのだろうが、うちの副長はそんなことは言わない。言ってくれない。
溜息をもう一つついて、エンリといえば・・・
「暗黒騎士の団長にでも頼めばいいのになぁ」
とつぶやくと、彼は闊達にハハハと笑い「流石にそれはないでしょう」と言った。
「一体どこの親が暗黒騎士に祝福を頼むって言うんです?」
呪われている、悪魔に愛されている、血なまぐさいといわれる殺戮集団の頭に?
そう言われるとウーンと唸ってしまう。
「でもセシルは結構善良な奴だと思うけどな」
俺がフォローをするのだが、
「善良な暗黒騎士なんていませんよ」
サッズはそっけない。俺とセシルが親友と知っていてすらこうなのだ。この男は。
「あぁ・・・でも、一人だけいましたね。彼らに祝福を頼むようなおバカが」
「ん?誰だ?それは」
「誰って決まってるじゃないですか。あの暗黒騎士団の中で唯一の妻帯者。セシル団長を心底慕っている・・・」
「あぁ・・・エンリか」
「そう。その男ですよ」
言いながら少しだけ不快そうにサッズが目を細めるのは、彼とエンリがあまり仲がよくないせいだろう。
「エンリといえば・・・お前はどうしてあいつが気に入らないんだ?あんなに人のいい人間もないだろうに」
「それが気に入らないんですよ。」
「だがそれが彼の素だ」
「そうですね。表も裏もなく、あの人のいいまんまがあの人ですね。でも、だからこそ気に入らないんですよ」
「ひねくれた奴だな」
しっていたけど。と、俺が呆れると、彼は自分でもその自覚があるのか片方の口の端を引き上げてシニカルに笑った。
「でも、気に入らないだけで嫌っているわけではありませんよ」
「複雑だな」
「そうですか?結構単純ですよ。彼のことは苦手だなぁとは思いますが、表と裏が一緒のうすっぺらな男ですから御しやすしと思っています」
さんざんな言われようのエンリに俺は少し同情してしまう。
「セシルが聞いたらなんというか・・・・」
「さぁ。あの人も大概のお人好しですからね。苦笑するだけじゃないですか?」
「うぅん。でも一言くらいあるようなきがするが・・・・」
「言いませんよ。面と向かっては。内心はわかりませんけどね」
「というと?」
俺が聞くと、彼はくるりと目を上に向けて言葉を選びながら口を開いた。
「そうですね。薄っぺらな男と私が言えば彼は一瞬はカッとするかもしれませんが、そう思っているならそう思っているがいい、あとで吠え面を掻くことになっても知らないよ・・と、そんな風に考え直して微笑みそうな気がするんですよね」
「へぇ。」
セシルに対してはエンリとは違った意味でまたかなり辛辣だ。だが、それがセシルの一面として本当にあることを知っている俺は、面白い評価だと思った。
「あの人はものすごい曲者って感じがします」
「お前よりも?」
「はは、俺なんか足元にも及びませんよ。」
「そりゃまた・・・」
どういっていいものか。
「だからセシル団長の評価はその副長とは逆で、とても好ましいとは思っているんですが抜き差しなら無いってかんじですね。油断したら食われそうだ」
むむっと眉間に皺を寄せるサッズ。つまり・・・その抜き差しならぬところが好ましいという・・ことだろうか。
「今の言葉を聞いていると裏のある人間の方が好ましいように聞こえるな」
「実際そう言っていますからね」
呆れた。その俺の顔を見て、
「だって、そっちの方が面白いでしょう」
サッズが付け加える。
面白い面白くない問題だろうか・・・。
いまいち納得がいかない。
むぅと唸っていると「だから」とサッズがもう一つ・・・今度は多少面倒臭そうに口を開いた。
「だから、俺はカイン団長ことは好きですよ」
「・・・それは俺が腹の中じゃぁ何を考えているかわかったもんじゃなくて、油断ならないという意味か」
好きと言われても先ほどの会話を踏まえると喜べたものじゃない。ムッとしたまま言うと、サッズは愉快そうに笑って頷いた。
「えぇ。俺は気が休まる暇がありません」
「・・・ふん。」

納得はいかない。
納得はいかないがしかし、こういう皮肉屋な副長を俺自身が気に入っているのは確かなことで・・。
俺は首を一つふって気を取り直すと、「さぁ、さっさと片付けてしまおう」とサッズを促して開いたままにしておいた本へと目を戻した。

有閑マダムごっこしたいなぁ

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